「高耶さん」
顔を見たときから、無表情ながらどことなく機嫌が悪そうだとは思っていたが、口を開けば最初から喧嘩口調、言ってることは意味不明。いったいなんなんだと怒りたいのは高耶のほうだ。
「今日は……朝一で大正砦の編成の見直しをして、昼から鷹ノ巣砦の霊波塔強化工事をして、夕方から中村で会議があって……で、宿毛で打ち合わせだろ。別に忘れた予定はないはずだけど」
自分で発した言葉に、高耶ははたと気がついた。
「ああ、今日はゴールデンウィークだったよな。そういや、5月3日は憲法記念日だったか。………おまえ、そんなこと俺に答えさせたくて怒ってたのか?」
ぷっつん。(←直江の中で何かが切れたらしい)
「えぇえぇそうですとも。今日は憲法記念日ですよ。いつだったかはゴミの日とか言われましたけどね、それは間違いです。ゴミの日は5月30日で"ゴミゼロの日"なんだそうですよ。そして私はゴミ以下ってことですね。分かってますとも。最近のあなたときたら頭の中が雑兵どものことでいっぱいで、他のことなんか綺麗さっぱりゴミ箱に突っ込んだあげくご丁寧に焼却処分して跡形もなく消し去ってくれちゃってますからね。それでもまさか今日のことまで忘れてるとは思いませんでしたよ。だいたい5月3日は憲法記念日ってことは思い出せて、なんで肝心のことが思い出せないんですか、あなたは。それともなんですか、譲さんのことみたいに、健忘症かかっちゃって忘れてるんですか。それなら脳みそに手を突っ込んででも思い出させてあげますよ!って人を無視して仕事してないで、ちゃんと聞いてください!」
「………ああ、そういえば」
絶叫した直江をぽかんと見つめたあと、高耶はさすがに気まずそうに視線を逸らした。
「おや、覚えていたんですか。いえ、今まで忘れていたんですから、覚えていたとは言い難いですね」
びしっと直江を睨みつけ、しかし高耶は小さくため息をついた。
「まぁ忘れてたのは悪かった。おまえは毎年しっかり覚えてて何かしら祝ってくれたもんな。ああでも、萩で別れてからはそんなこともなかったっけ」
よく考えれば、この400年間、嫌味の応酬で景虎に勝てたことなどない直江だった。
「なにはともあれ、誕生日おめでとう、直江」
それでもこうして微笑って祝ってもらえば嬉しいわけで。
「それでいくつになったんだ?俺がもう20超えてるから、おまえはとっくに30超えてるんだよな。そんな歳になっても嬉しいもんか?」
こんな他愛ないやりとりが、今年の大切な思い出になった。
[終]
紅雫 著 [あとがき] 直江(というより橘氏)生誕の日ということで、短いものですが作ってみました。このテーマで書いたのは久しぶりな気がする…。誕生日は毎年あるはずなのに(^^;) 久しぶりなせいか、けちょんっぷりも微妙です。あんまりコケにされてません。よかったね、直江(笑)。 まぁ四国編はそれなりに直江も頑張ってたので、けちょけちょに苛めたいという欲求が少ないのかもしれませんが。 それでは今年も歪んだ(笑)愛を込めて。「ハッピーバースデー直江!」 |
目次 |