ふと、高耶が足を止めた。 「ああ、本当だ。もう梅雨ですからね」
その時期に傘を忘れた自分を自嘲しつつ、止まってしまった高耶を促すように、肩に手をかけた。 とうとう雨が降り出してしまった。
「高耶さん、風邪を引いてしまいます。早く戻りましょう」 うっとりと雨に打たれる紫陽花を見つめながら呟く。 「………紫陽花は、雨に濡れてる時が一番綺麗なんだ……」 だからもう少しだけ見ていたい。 それっきり、口を閉ざしてしまう。動きそうもない様子に、直江は溜息をついた。 「じゃあ私は走って傘を取ってきますから、どこか木陰にでも入って待っていてください」 そう言って踵を返そうとした時、慌てたように高耶が服の裾を掴んだ。
「いらない。傘なんかいらないから、おまえもここにいろ」 咎めるような声に、高耶は微笑んで返す。 「風邪引いたら、おまえが看病してくれるんだろう?」 たった今まで紫陽花を見つめていた視線で、直江をじっと見上げる。 「もちろんですよ――――」
柔らかく腰を引き寄せられ、高耶は直江の胸に頬を寄せた。
[終]
紅雫 著 [あとがき] YUKO様から31000カウントHIT記念で頂いたイラスト「hydrangea」に合わせて、ショートショートを書いてみました。でもイメージを壊すと嫌なので、別にUPする私(←小心者)。
【改訂】(2003.10.20) |
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