ソファーに座って本を読んでいた直江の首に後ろから手を絡めながら聞く。 「2、3ですか?2日は仕事が入ってますね・・・・。3日だけじゃ駄目ですか?」 ・・・・3日は空けてあったな、コイツ。
「忙しいのは知ってる。でも、2日も休み取れない?」 そう。一言も言いやしないけど、かなり忙しいのは知っている。休日も関係なしって感じだし。でも、年に一度のことなのだ。これを逃したらあと一年待たなくちゃいけない記念日。こっちもゆずれない。 もうだいぶ休み取るほうに傾いてきてる。後ひと押し。 「なあ、・・・・ダメ?」
俺はちょっと首を傾げてさらに上目遣いで直江の顔を覗き込む。 「2日も休みましょう!ええ、その方がいい!」
思惑通り早速休みを取るべく電話に向かう直江。
これは何か品物じゃなくて、あいつが喜びそうなことをしよう。
ここまではすんなり決まった。・・・のだが、具体的になにをするのかがなかなか決まらない。 直江が俺にしてくれること、それをあいつに返してやろう。 あの男はやたらと俺の世話をやきたがる。直江の誕生日には俺が一日中めいっぱい世話を焼いてやろうではないか。
直江は珍しくまだぐっすり眠っている。今日休む為にやはりちょっと無理をしたらしい。 「な〜お〜え!朝だぞ。そろそろ起きろよ。」
基本的に寝起きのいい奴だから、声をかけた後、間をあけずにおはようのキスをした。 直江が目を覚ます。ゆっくりと目を開くとにっこり笑って言った。 「今のもう一度してくれます?眠っていたので分かりませんでした。」
いけしゃあしゃあと。眠ってたから分からなかった、なんて言うけどむしろ、キスする前からたぬき寝入りだったんじゃないか?
「じゃ、おはようのキスなんだからもう一回眠れ。」 おとなしく言うことを聞いて目をつぶった直江にもう一度キスを降らせてやる。 「朝ご飯出来てる。食べよう。」 直江の手を引きながら寝室を出て、ダイニングテーブルにつかせた。
二人でダイニングテーブルに座って朝食をとる。
そこで、いったん直江は言葉を切った。 「なに?」 先を促すように聞いた俺にヤツは笑顔でこう続けた。 「あなたは、私に甘えたくないですか?」
その時のことを思い出して俺は思わず赤面する。なんて事を聞くんだ、この男は!! 「どうしたんですか。顔、赤いですよ?」 ・・・と思った矢先に気付かれた。くそぅ。話題転換するか。
「なんでもない。昼ご飯のための買い物しに行こう。」
思ったより簡単に話題転換成功。
「だから〜、今日は俺がいつもお前がすること、したがること、返すの!」
仕方ないから今日の計画を教える(あれでわかったのかなぁ?)とやっと納得したみたいだ。 次は風呂…・風呂なんだけどこれはちょっと言いにくいんだよなぁ。・・・・照れる。でも買い物の時、今日の抱負(?)を宣言しちゃったから直江からは言ってこないだろうし。
「直江、えっと、あ、風呂・・・入らないか?」
にやり。
「・・・・・・・・・・・いっしょに入ろう?」 くそっ。調子に乗りやがって。 「・・・やっぱ、やめた。」
直江が焦った顔をする。情けねぇ顔。 俺だけ。
そう考えると頬が緩んだ。 「冗談ですよ。あんまりあなたが可愛いからつい苛めたくなってしまいました。」
そう言いざま俺を抱えてバスルームに向かう。
「直江。」
デジタルの時計がピッと小さな音をたてる。 「誕生日おめでとう。」
小さなキスと共にできうる限りのいい笑顔でそう伝える。何もあげないのもなにかと一応用意したプレゼントをベットの下から引っ張り出した。 「ありがとう、高耶さん。」 直江もキスと最上級の笑顔で答える。
「とても嬉しいです。キーホルダーはもちろんですけど、今日一日随分と甘やかしてもらいました。」 思わず赤面して暴れようとしたら、腕の中に閉じ込められた。 別に嫌なわけじゃない・・・むしろ気持ちいいけど、悔しいから睨めつけてやる。 俺の視線を何処か幸せそうに受け止めていた直江がふと思い出したように疑問を口にした。
「ところで、何で2日だったんですか?別に3日でも良かったんじゃ・・・?」 そこまで答えたものの、何だか眠くてたまらない。朝から張り切ってたからだろうか。もう、瞼がくっつきそうだ。意識が遠のく。 「もう今日ですけどね。・・・・・・高耶さん?眠っちゃったんですか?」 直江の声をどこか遠くに聞きながら眠りに落ちていく。 「明日になれば・・・・」
トゥルルルルル、トゥルルルルル ――――ほら。
「はい。たちば・・・」 ピーンポーン 「来客だ。文句はあるが、まぁいい。切るぞ。」
ガチャ
「こちらに印鑑お願いします。」
いつも、直江のことを"アニバーサリー男"とか言ってからかうくせに、人一倍お祭り好きな奴等がやってくる。
「直江〜〜。誕生日祝いに来てやったぞ〜。なんかおごれ〜。」 今度は千秋が来た。直江は文句を言いつつ、もう額を押さえて諦めモード。
「あ〜〜?固いコト言わない。なんだ?この荷物は。高坂からだぁ?開けるぞって、・・・・・・ゲッ!!」
!! 「お前が郵送されてくるほうがよっぽど"何故"だ!!」 千秋が涙目で抗議してる。無理もない。俺も荷物開けて高坂が出てきたら泣くな、多分。直江は自分が開けなくて良かったって顔だ。こっちも無理もない、だろう。 「フン。まぁいい。直江、また年を取ったな。」
高坂は千秋の抗議をあっさり無視して祝いの言葉(?)をくれた。
「直江、何だかんだ言って、みんなに愛されてるなぁ。」 トゥルルルルル また電話だ。今度は誰からだろう? ピーンポーン ・・・お客さんも来た。
「・・・・高耶さん、インターホンの方、お願いします。」
もうリビングでくつろいでる二人に憮然とした視線をむけながら直江は電話に向かう。
「なおえ〜〜!お袋さんから荷物届いた〜〜。」 「鮎川・・・お前まで・・・。」 「おい、ここの酒開けるぞー。」 「・・・・・・・。」 「・・・・・!」 ・・・・・・・ ・・・・・・
[終]
しんえ 著 [あとがき] 高耶さんのしゃべり口調一人称でやってみました。 この高耶さん、策士?「直江は俺にメロメロだっ」という自信に満ち溢れてるし。 まぁ、直江が果報者ですが、誕生日小説なので許してあげます。 ああ、それにしても時期はずれになったものだ…(遠い目)。 |
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