「なおえぇ、ほら、チョコレートだぞっ」
直江は感動のあまり、滂沱の涙を流した。 (苦節400年、ようやく私の想いが通じたんですね、高耶さん!) 400年前にバレンタインはないぞ、直江信綱。
「ありがとうございますぅぅ!」 さっと差し出した手を、だが高耶はぴしゃりとはねつける。
「その前に、確かめたいことがある」 (なにぃ!?) 一瞬何を言われたのか理解できなくて、脳が機能停止する。だが身体は反射的に従っていた。高耶が差し出した左手に、ぽんっと右手を置く。 「おすわり!」 どすっとリビングにひざまずく。 「三回まわってワン!」 座り込んだまま一箇所でぐりぐりと回る。
「ワン!」 ぽーんと窓の開いたベランダに向かって投げられたそれは…… 「あああああああっ!」 高耶のチョコレートだった。 「あああああああああああああ……っと、取ったぁ!」 手すりに乗り、必死で伸ばした右手は、しっかりと包みを掴んでいた。 (やった、手に入れた!) とガッツポーズをした瞬間。 「ああああああああああああああああああああ」 まっさかさまに落ちていった――――。
ばこん☆ 罵声とともに、げんこつが直江の頭に落とされた。 「はっ!?」 ばちっと目を覚ました直江は、そこに見慣れた天井と、見飽きない愛しい顔を認めた。その愛しい人は、おもいきり呆れた顔で直江を見つめている。
「おまえ、すっげぇうなされてうるさかったぞ。どんな夢見てたんだよ」
直江は呆然とつぶやく。
「夢……よかった…」 優しく高耶が聞いてくる。促されて、直江は今の夢を話した。
「ね、変な夢でしょう?」
にっこり。
[終]
紅雫 著 [あとがき] 緋菜様に頂いた「はつゆめ」が印象深かったようで、ついつい夢オチにしてしまいました(笑)。緋菜様、パクッちゃってすいませんでした。 あまりにも激しく直江けちょんかなぁ?と思ったので、KECHONISTにも投稿してます。 しかし直江、おまえにはプライドというものがないのか。 それとも高耶さんのチョコなら、高層マンションから飛び降りてでも欲しいのか。 このマンションがペット禁止じゃないことを祈るばかりですね。保健所が呼ばれたりしたら、目も当てられない…。しかも案外この高耶さんなら、直江の首に縄つけて差し出しそうで、ますます怖い今日この頃。
【改訂】(2003.10.20) |
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