「直江……誕生日、おめでとう」 視線を逸らし、頬を赤らめて高耶が呟く。照れ屋なこの青年がこの一言を言うのに、どれだけ勇気がいったことだろう。 「ありがとうございます」
もう祝ってもらう歳でもないだろうに、直江は至極嬉しそうに微笑んだ。そのまま抱き寄せて優しくキスをする。いつもなら嫌がる高耶も、今日は大人しい。
「ちょっと待て。せっかく誕生日プレゼント持って来たんだから、先に見てくれよ」
まさか高耶が自分にプレゼントをくれるとは思わなかった直江である。驚いてまじまじと高耶の顔を見つめると、高耶は怒ったように唇を尖らした。
「そうだよ。…なんだよ、オレがおまえにプレゼントしちゃおかしいのか?」
慌てて微笑むと、高耶はよし、と頷いてカバンの中からなにやらごそごそと取り出し始めた。
「実は千秋と姉さんと譲からも預かって来たんだ。だから結構かさばって大変だったんだぞ」 感謝しろよ、と言う高耶の言葉を、だが直江は意識の片隅でしか聞いていなかった。 (長秀と晴家と譲さんから………?)
なんだか嫌な予感がする。
そう決心した直江の堅いガードをぶち壊してくれたのは、その最愛の高耶からのプレゼントだった。
「あ、あったあった。これ、オレからのプレゼントな」
予定通り最上の笑みを浮かべて受け取り、さっそく美しく包装されたプレゼントを開けてみる。
「………あの……高耶さん………、これは………」
最愛の主君はにっこりと天使のような微笑みでのたまった。 「結構高かったんだぞ。でもおまえには健康でいてもらいたいから」
はにかんだように言う高耶。 「で、これが姉さんと千秋からで、こっちが譲からだ」
そして渡された犬用首輪と犬用ハーネスと犬用ブラシ………。 「皆おまえのこと考えてくれてるんだな」
それは違う。絶対違う。
「高耶さん、あの、もしかして……。この間のこと、まだ根に持ってるんですか………?」
すっとぼけた答えを返す高耶。 「まだ怒ってるんですね………」
「どうした、直江。まさか気に入らないのか?」
――――そんなことあるわけないよなぁ。 「…………………とっても嬉しいです………」 苦しげな直江の答えに、高耶は満足そうに頷いた。 「そっか!良かった。じゃあこれ、ちゃんと使ってくれよな」
それは無理ってもんだろう。 「………はい………」 退路を断たれた直江には、もはやこう答えるしか術がなかったのであった。
おまけ
その夜のこと。 「ちょうど良かった。今コーヒー煎れたところなんだ」
そう言って高耶が差し出してくれたマグカップを受け取って礼を言い――――直江は気づいた。 「このマグカップはどうしたんですか?」
それは黒くてシックな感じのマグカップだった。だが直江はこんなマグカップをこの家で見た覚えがない。
「ああ、これ?これが本当のプレゼント」 驚きのあまり間抜け面になった直江を見て、高耶は楽しそうに笑った。
「まさか昼間の、本気にしてたのか?あれが誕生日プレゼントなわけないだろ。これが本当のプレゼントだよ。あと、こっちはオレの分」
最後は少し照れたように、ぶっきらぼうに言う。
「わっ!馬鹿!コーヒーが零れるっ」 高耶を気遣いながらも、手はしっかりと抱きしめたままだ。 「ったくもう……」
唇を尖らせながらも、高耶も本気では怒っていないようだ。
「ありがとうございます、高耶さん。本当に嬉しい…」
はにかんだように答える高耶が愛しい。
「もし、一緒に暮らせるようになったら……」
犬を飼おう。譲がくれたブラシでブラッシングをして、晴家がくれた首輪を付けて、長秀がくれたハーネスをつけて散歩をしよう。
まさか高耶が
おまけ2
数日後、直江の元に高坂から、油性マジックででかでかと「直江専用」と書かれた"犬用蚤取りシャンプー"が届いた。 「たとえ犬を飼っても、これだけは絶対に使わん!」
[終]
紅雫 著 [あとがき] 注:ペディグリーチャムに6缶セットがあるのかどうかは定かではありません。信じないでくださいね(笑)。
紅雫風味の直江お誕生日小説はいかがでしたでしょうか?題名からして直江ファンに喧嘩売ってるようなお話ですが(爆)。皆様どうぞ剃刀なんぞ送らないでくださいね(笑)。これも愛ってことで(←どこがだ)。 |
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