仰木高耶ファンクラブの実態






「きゃ―――!!見せて見せて!」
「超カッコイイ〜!」

ここは宿毛に置かれた白鮫衆本部。その廊下を多忙な実務が一段落した青月が通りかかったとき、こんな声が聞こえてきた。

(これは…入ったばかりの娘達?)

なにやら楽しそうなその様子に、少しばかり興味を引かれて、つつつと近寄ってみた。

「おんしら、なにしちゅうの?」
「あっ青月姉さん!?」

尊敬する大先輩に声をかけられ、少女達は驚いて手元にあった物を落としてしまった。

「あっ!」

慌てて拾おうとするが、青月にはばっちり見えてしまった。
それはいつのまに撮ったのやら、数十枚の仰木高耶の写真だったのだ。アップの横顔だったり、食事をしているところだったり、隊士と打ち合わせをしている姿だったり……。
青月は
(よくもまあ、こんなに撮り溜めたもんじゃねぇ)
と半ば感心していたが、少女達は完全に萎縮して青月に謝った。

「すいません、青月姉さん」
「???なんで謝るの?」
「だって…。頭は仰木高耶を嫌っちゅうき、こういうことすると怒られるかと思って…」

しゅんとしてしまった少女達を見て、青月は苦笑した。

「寧波も別に仰木を嫌っちゅうわけじゃないがよ。ただお気に入りの兵頭が、あれの部下になっちゅうのが気に入らんのじゃろ」

だから気にせんとき、と言って笑う青月に、少女達はぱっと顔を輝かせた。
それが白鮫衆内部抗争に発展するとは、この時点で誰も思いもしなかったのである。



その数日後――――。
青月は再び廊下で少女達を見かけた。だが今度はなにか言い争っているようだ。

「ちょっと、何しちゅうがか!」

部下の揉め事を諌めるのは上司の役目。青月は落ち着いて間に入った。
すると、少女達は一様に自分の主張を始めた。
とりあえず順番に落ち着いて、話をさせてみたら……。

「……は?」
「じゃから、お許しがでたから、みんなで仰木高耶ファンクラブを作ったとです」
「…それで?」
「そしたら、カップリングは橘×仰木がええちゅうのと、兵頭×仰木がええちゅうのに別れてしもうたがです」

この時点で青月は話についていけなくなる。
なぜにカップリング???
その疑問に答えるように、少女の1人が興奮したように言い募った。

「だって、こないだ橘と仰木が抱きおうてたのを見たっちゅう娘がおるきに…!」
「それを言うたら、兵頭と仰木が抱きおうてたちゅう話もあるがよ!」
「それは転びそうになった仰木を助けただけじゃて、卯太郎が言うてたもん!」
「あんたら、どうしてそうやって仰木を受にしたがるんじゃ!仰木は仰木じゃ!うちらのアイドルを勝手にホモにせんといて!」

喧々囂々、すごい騒ぎである。もはや青月がそこにいることなど、目に入っていないに違いない。
青月はその馬鹿馬鹿しさに思わず眩暈を感じ、どう収拾をつけようかと頭を悩ますのだった――――。


結局この騒ぎは寧波にまで届くこととなり、『そんな阿呆な理由で喧嘩すんじゃない!』という一喝ですべて収まることとなった。「仰木高耶ファンクラブ」はその日の内に解散させられ、表立って少女達が喧嘩することは無くなったのだが。
いまでも影では、橘×仰木派と、兵頭×仰木派と、さらには仰木高耶至上主義の夢見る乙女達で分裂抗争を繰り返しているらしい……。





[終]

紅雫 著
(2000.05.09)


[あとがき]
『愛の生活』以来のショートショートに挑戦。
白鮫衆はきっともっと逞しい女達ばかりなんだろうと思いつつ、「高耶さんは女にもモテるのよーーー!」ということを書きたいばかりにこんなことに。やっぱり大人しく城北高校編で書けば良かったのか(苦)。


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