いたち茶屋に行こう!






都会から少し外れた田舎町の、川のほとりの小さな和風喫茶店。
開店中の札が下がる扉をからからと引くと、「いらっしゃーい」と景気のいい声がかかる。
明るい雰囲気の店内は、一周年目という記念日のせいもあってか、なかなかの賑わいであった。
そんなことを思いながら青年と男が入っていくと、ひときわ大きな歓声が聞こえた。

「景虎、直江!いらっしゃい、よく来てくれたわね」
「ねーさんが来い来いって言ったんだろ」

苦笑して返す高耶に、この店の看板娘の綾子は嬉しそうに笑った。

「だってせっかくの一周年記念日なんだもの。絶対来て欲しかったのよ」
「今日はおごりなんだろ?」
「もっちろん!なんでも頼んでいいわよ。なんてったって、店主のおごりだから」
「へぇ……」

それはすごい、と高耶は顔を輝かせると、直江の誘って窓際の席に座った。

「なかなか繁盛しているようだな」(←えらそうに言うな)

という直江の言葉に、綾子は胸をはって答える。

「あったりまえでしょ。このあたしが看板娘なんだから!」
「…それだけじゃないだろう」
「まぁね、あんたたちのおかげよね。いい客引きになってくれてるし」
「なんでオレたちのおかげなんだ?」

横から高耶が不思議そうに口をはさむ。
直江は優しく微笑んで、主君の疑問に答えた。(←態度が違う、態度が)

「ここの店主に名前を貸して欲しいと言われたことがあったでしょう?それ、この店のメニューに使ってるんですよ」
「え!?じゃ、これにオレたちの名前が入ってんのか!?」

慌ててメニューをめくる高耶。

「ええ、どんな風に使っているのかは知りませんけど……」
「あんたたちのファンは多いからね、すごくウケてるのよ。固定客もついたし、これでお店も安泰よね♪」

だが高耶は楽しそうな二人の声を聞いていなかった。
凍りついたようにメニューを見つめ、ついで恐々と綾子を見上げる。

「……………これ……いったい何が出てくるんだよ………?」

高耶が指差すそこには、怪しげな文字が並んでいた。



*めにゅう*

◎いたち弁当

直江・高耶甘々
直江・高耶シリアス
直江・高耶パラレル
直江けちょん

◎一番茶

直江・高耶甘々
直江・高耶シリアス
直江・高耶パラレル
直江けちょん

◎おぜんざい

ポスペおやつ(日替わり)
小太郎アイコン(日替わり)

◎隠れ家



………怪しい。とことん怪しい。
とてもお茶屋のメニューとは思えない。
本当に、これは食べられる物がでてくるのか?
それを見て、直江も唸る。なんとなく内容も想像できるだけに、ますます嫌な予感がした。

「これは食べ物なのか…?」(←失礼な!)
「そうよ、失礼ね。味はまぁ、食べてみてのお楽しみだけど」

隠れ家はまた別メニューでね、と綾子はいたずらっぽく微笑んだ。
しかしこれではとても気軽に頼めない。
周りはどうなのだろうかと見渡すと、それぞれ普通の料理をおいしそうに食べているようだ。やはりおかしいのは名前だけなのか。

「普通なんだな?ホントに食べられるんだな?」
「そうだって言ってるでしょ、疑い深いわねぇ」
「うーん、じゃあ何にしようかな…」

高耶はくどいほど綾子に確認し、ようやく選ぶ気になったようだ。
直江としても、せっかくこんな辺境まで来たのだから、何か食べて帰りたい。

「晴家、この隠れ家というのはなんだ?」
「ああ、それはねぇ……」

にやり、と綾子は笑って、直江の耳元でごしょごしょと囁いた。
本当は気軽に教えてはいけないものなのだが。
そう、隠れ家の料理は別名「18禁料理」といって、特別なパスワードを貰わないと食べることができないのである!(爆)
内容は押して知るべし。
当然直江にとっては垂涎のメニューだ。聞いたとたん、思わず直江は叫んでいた。

「なにぃ!?」
「なんだよ、なんなんだよ」
「なんでもありませんよ、高耶さん」

高耶が興味津々といった顔で聞いてくるが、とても教えられない。(そりゃそうだ)
これは高耶がいないときに食べに来るしかなさそうだ、と直江は思った。その顔が崩れていることに、綾子は気づかないふりをした。

「で、景虎は何にするの?」
「うん…。なぁ、いたち弁当と一番茶って何が違うんだ?」
「ああ、それはいたち弁当は店主が作ってる料理で、一番茶は特別に来てもらってるシェフが作ってる料理なのよ」

その分一番茶のほうが、値段が高くなっているのだ。

「そっか。よし、じゃあ決めた!」
「何にしたんですか?」
「おまえは?」
「私は一番茶の"直江・高耶甘々"にしようかと…」
「おまえ甘いの苦手じゃん」
「これがきっと一番無難だろうと思いまして」(←賢明な判断である)

高耶はふぅんと首をかしげると、メニューをぽんっと閉じた。

「オレはいたち弁当の"直江けちょん"にする」
「ええええええっ!?」

突然でかい声を張り上げた直江に、高耶は驚いて身を引く。

「な、なんだよ」
「こんなにたくさんメニューがあるのに、よりにもよってどうしてそれを選ぶんですか、あなたは!」
「これの何がいけないんだよ。それにオレは"直江けちょん"って響きが気に入ったんだ。変える気はない」
「そんな……!」

ショックを受けている直江にかまわず、高耶はさらに
「あと、おぜんざい"小太郎アイコン"もな」
と頼むと、
「何が出てくるのか、楽しみだよな♪」
とのたまった。

自分は本当に高耶に愛されているのか。
その愛を疑って21世紀も回転する直江信綱であった。



一方、厨房では。

「高耶さんが直江けちょん選んだって!?」
「うーん、わかっててやってるのか、それとも無意識なのか…」
「まぁなんにせよ、これはますます直江けちょんに力を入れろという高耶さんの思し召し!よっしゃ、がんばるぞ〜♪」

なにやら盛り上がる店主が二人いたとかいないとか…。



いたち茶屋開店一周年の日は、こうして過ぎていくのであった。





[終]

紅雫 著
(2001.01.20)


[あとがき]
一周年記念ということで、いたち茶屋を舞台にしたしょーもないお話を書いてみました(笑)。いかがでしたでしょうか?
神(高耶さん)の啓示もあったことだし、これからも直江けちょんをメインとして、がんばってお料理(作品)を作っていきたいと思いますので、どうぞこれからも当店をよろしくお願いいたしますね♪


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