窓から射し込む眩しい光に、高耶の意識がゆっくりと覚醒していく。ぼんやりと開けた視界に、見覚えはあるがあまり見ない天井が映った。 (あ、そっか。昨日は別々に寝たから………)
一瞬どこにいるのか分からなかったが、よくよく見れば自分の部屋だ。一応ベッドもあるのに、ほとんど直江と一緒に主寝室を使っているため、あまり天井には見覚えがなかったのである。 「あれ……?今、何時だ?」
こんなに日が高くなるまで眠っているのはおかしい。だって直江が早く家を出るから、朝飯作るために起きなきゃならないのに……。 「なんだ、寝坊か……」 ほっと溜息をついて、高耶は直江を起こそうとベッドに近づいた。本当はもっと寝かせてやりたかったが、もう会社に行かなければならない時間だ。 「おい、直江。そろそろ起きろよ。遅刻するぞ」
枕元に近づいて声をかけるが、直江はぴくりとも動かない。不審に思って顔を覗き込んで、高耶は焦った。 「直江っ!」
慌てて額に手を当ててみれば、ものすごい高熱だ。 「……高耶さん………」 掠れてほとんど聞こえない声で名前を呼ぶ。
「……すいません…。会社に、電話をしてくれませんか……?」
どう見たって大丈夫には見えないが、嫌がるなら仕方がない。今日一日看病して、それでも熱が下がらないようなら病院に連れて行こう。 (そうだ、薬。薬を買ってこなきゃ) 高耶は財布を引っ掴むと、マンションを飛び出した。 (直江、待ってろよ!)
(ああ、熱を出したんだったな……)
眠りに落ちる前の自分を思い出し、直江は自嘲した。まったく、たかが過労で熱を出すとは、我ながら情けない。 「直江!起き上がっちゃ駄目だろう」 叱り付ける高耶の視線に不安が交ざっていることを読み取って、直江は安心させるように微笑んだ。
「もう大丈夫です、高耶さん。心配かけてすみませんでした」 赤くなって問いかける高耶に、直江はしっかり頷く。高耶は直江の側に腰掛けると、額や頬に手を当てた。 「本当だ。もうほとんど平熱だな」 よかった、と溜息をつく高耶を直江は優しく抱きしめた。
「高耶さんの看病のおかげです」 首筋にかかる吐息に、くすぐったそうに身を捩って高耶は微笑んだ。
「やっぱ解熱剤がよく効いたんだな」 期待してにやり、と笑った直江に、だが高耶は爆弾を落っことした。
「いや、座薬」
「だから、座薬。熱さましにはあれが一番効くんだぜ」 (…………ということは、自分は……アソコに……座薬を……?) 真っ青になった直江をどう勘違いしたのか、高耶は仕方がないなぁ、という顔でのたまった。 「なんだよ。オレ達お互いのことはもう全部知り合ってるんだから、今さらケツの穴見られたくらいで恥かしがるなよ」 (そういう問題じゃないんですけど――――!!!)
直江の心の叫びは届かない。 「今、おじや持って来てやるから。ちゃんと食って、寝て、早くよくなれよ」
とどめに頬にキスをして、軽やかにドアの向こうに消えて行く。それはまるで新婚さんのような幸せな風景。 (……座薬………座薬…………ああ、高耶さん………)
[終]
紅雫 著 [あとがき] 座薬…。恐らく子供にしか使用しないであろう凶悪な薬。あくまでも直江けちょんのために使用したのであって、実際に大人にも効くのかどうかは謎。
某直江けちょんサイト(笑)用の、直江けちょん小説第二弾です。 |
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