もしも四国に帰るなら♪ ―30巻ネタバレショートギャグ―






赤鯨衆が斯波英二を拉致していたカルト教団――――!?
熊野でTVを見た高耶達は愕然とした。しかも首謀者として高耶の顔写真が大々的に映され、APCDもすべて赤鯨衆のせいにされている。
あまりのことに真っ青になってがくがくと震える高耶を、直江は抱きしめて支えた。

「しっかりしてください、高耶さん!」
「………だめだ…。帰らなきゃ。四国に帰らなきゃ!」
「だめです!今帰ったら、それこそあなたは現代人の攻撃の的になる。そんなことはさせられない!」
「じゃあどうすればいいんだ!ここにいたってオレが仰木高耶だとバレるのは時間の問題だ。このまま帰れなくなるくらいなら、今すぐ四国に帰った方がいい!」
「高耶さん………」

今にも崩れ落ちそうなくせに、必死な眼をして訴えてくる。
直江は苦々しげに溜息をついた。

「わかりました。四国に戻りましょう」
「直江……」
「船では遅いので、飛行機かヘリを用意しましょう。そのかわり、あなたが仰木高耶だとバレないためにも変装してもらいます。いいですね?」

その言葉に高耶が大人しく頷くのを見て、直江は高耶を庇うように抱きしめたまま電話で指示を出し始めた。
高耶は自分を支えてくれる腕によりかかるようにして、詰めていた息を深く吐き出した。
こういうとき、この男がいてくれて良かったと心から思う。いつでも冷静に自分を支えてくれる。かけがえのない半身――――。


しばらくして準備が出来たらしい。直江は高耶を連れて近くのラブホテルへと身を隠した。
そして――――。

「なんなんだこれはぁーーーー!!!」

高耶の絶叫が狭い部屋に響き渡る。

「なんだも何も、変装してくれと言ったでしょう」

直江は至極当然と言うように高耶を見やった。だが高耶は怒りに眼を燃やし、直江を睨みつけた。

「変装するとは言ったが、女装すると言った覚えはない!!」

そう、高耶に用意された変装道具は、ダークグレーのタイトロングスカートのスーツと、どこから探して来たのやら高耶の足がぴったり入る馬鹿でかいパンプス、そしてロングストレートのかつらに化粧道具だった。

「変装で一番効果的なのは性別を変えることなんです。ごちゃごちゃ言わずにさっさと着替えてください」

言い放った直江に、有無を言わさず服を剥かれる。

「こんなごつい女がいるか!」
「女子バレーボール選手は、あなたより大きくて筋肉もついてますよ」
「すぐバレるぞ、こんなの」
「ちゃんと女に見えるから大丈夫ですよ。あとは喋らなければ、まずバレることはないでしょう」
「〜〜〜こんなみっともない格好で戻れって言うのか!?」
「嫌なら帰らなきゃいいんですよ。どうします?」

意地の悪い直江の質問に、高耶は悔しそうにそっぽを向いた。
帰らないわけにはいかないのだ。
つまりはこの格好で――――。

細身に映えるようなスーツを着て、化粧を決め、サングラスをかければ、高耶はどこからどう見ても女だった。しかもスーパーモデルのように見栄えのする。
だがしかし。

(今空海の威厳形無しだな………)

その場にいた全員がそう思ったのは確かだった。



その日、高耶一行は無事四国入りを果たした。監視している赤鯨衆の霊にすら高耶と気づかれることなく。

「ほら、誰にも気づかれなかったでしょう?」

そら見たことか、と言わんばかりの直江の態度に、
(どうして誰も気づかないんだ)
という理不尽な怒りと、
(でもこんな格好してるのがバレるのも嫌だ)
という恥辱にジレンマを抱える高耶だった。

その後彼が降り立った空港では、「まるでスーパーモデルかどこかの女王様のような迫力美人がいた」と後々まで広く空港関係者に語り継がれたそうだ――――。





[終]

紅雫 著
(2000.05.26)


[あとがき]
長編に詰まって作ったショートショート。またもや高耶さんを女装させてしまった(爆)。
でも原作でも変装する場面があったけど、絶対女装すれば高耶さんだってバレないと思ったんだもん。まあ世の中そう上手くはいかないだろうけど…(笑)。


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