「しっかりしてください、高耶さん!」
今にも崩れ落ちそうなくせに、必死な眼をして訴えてくる。
「わかりました。四国に戻りましょう」
その言葉に高耶が大人しく頷くのを見て、直江は高耶を庇うように抱きしめたまま電話で指示を出し始めた。
「なんなんだこれはぁーーーー!!!」 高耶の絶叫が狭い部屋に響き渡る。 「なんだも何も、変装してくれと言ったでしょう」 直江は至極当然と言うように高耶を見やった。だが高耶は怒りに眼を燃やし、直江を睨みつけた。 「変装するとは言ったが、女装すると言った覚えはない!!」 そう、高耶に用意された変装道具は、ダークグレーのタイトロングスカートのスーツと、どこから探して来たのやら高耶の足がぴったり入る馬鹿でかいパンプス、そしてロングストレートのかつらに化粧道具だった。 「変装で一番効果的なのは性別を変えることなんです。ごちゃごちゃ言わずにさっさと着替えてください」 言い放った直江に、有無を言わさず服を剥かれる。
「こんなごつい女がいるか!」
意地の悪い直江の質問に、高耶は悔しそうにそっぽを向いた。
細身に映えるようなスーツを着て、化粧を決め、サングラスをかければ、高耶はどこからどう見ても女だった。しかもスーパーモデルのように見栄えのする。 (今空海の威厳形無しだな………) その場にいた全員がそう思ったのは確かだった。
「ほら、誰にも気づかれなかったでしょう?」
そら見たことか、と言わんばかりの直江の態度に、 その後彼が降り立った空港では、「まるでスーパーモデルかどこかの女王様のような迫力美人がいた」と後々まで広く空港関係者に語り継がれたそうだ――――。
[終]
紅雫 著 [あとがき] 長編に詰まって作ったショートショート。またもや高耶さんを女装させてしまった(爆)。 でも原作でも変装する場面があったけど、絶対女装すれば高耶さんだってバレないと思ったんだもん。まあ世の中そう上手くはいかないだろうけど…(笑)。 |
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