楢崎と豆の木 〜正しいお金の稼ぎ方〜






あるところに、楢崎という少年が住んでいました。彼はお母さんの寧波(笑)と二人暮らしでしたが、大変貧乏でした。

ある日とうとうお金が無くなり、寧波は楢崎に言いました。

「楢崎、おんしちいと町まで行って金稼いでき」
「ちょっと待てっ!ここは確か、家に一頭だけいる牛を売るんだろーが!」

寧波の言葉に、楢崎は慌てて食ってかかります。

「だいたいあんたが無駄遣いばっかりするから金が無くなるんだ。少しは節約したら…」

そこまで言って、楢崎ははっと口を噤みました。
しかし時すでに遅く…寧波の鋭い眼光が楢崎に突き刺さっていました。

「ほう、うちに意見するとは随分偉くなったもんじゃねぇ。一体何様のつもりなんだい?」

(やべ…っ)

姫水軍の長の怒りに触れ、楢崎は真っ青になってぶんぶんと首を振ります。
その様子に寧波はにっこりと笑うと、

「ガキは黙って親の言うこと聞いてりゃあええ。分かったらさっさと行ってき!」

と言って、楢崎を家から蹴り出してしまいました(笑)。
こうして楢崎は何も持たずに、金を稼ぐため町へ行く羽目になったのでした。



(バイトするっきゃねーかなー…)

溜息をつきつつ町への一本道を歩っていると、向うからカメラを首に下げた無精ひげの男がやってきました。

「あ、おい、あんた。地元の人?」

何やら気さくに話し掛けてきます。

「そうだけど?」

楢崎が胡散くさげに答えると、その男は名刺を取り出しました。

「俺、武藤ってカメラマンなんだけどさ、実はこの辺で仰木高耶を見たって話を聞いたんだよ。あんた見たこと無い?」

仰木高耶とは、最近まであらゆるメディアを騒がせていた世界的トップスター(笑)です。老若男女を問わず、世界で知らないものはないというほどのトップスターだったその彼が、ある日忽然といなくなったことで、マスコミは大騒ぎになりました。 もちろん楢崎も知っているどころか、彼の大ファンでした(笑)。

「マジかよ!?それガセじゃねぇの?俺この辺詳しいけど、一度も見たこと無いぜ?」
「そうかぁ、やっぱガセかな…」

武藤はがっくりと肩を落としました。

「そんじゃ俺は帰るわ。そうだ、これやるよ」

武藤が楢崎に渡したのは、5粒のそら豆でした。

「なんだこれ?」
「なんでも仰木が落としてった物なんだと。でもまあ、嘘物だろうけどな」

そう言うと、武藤は町への道を引き返していきました。
このことですっかり当初の目的(金を稼ぐこと)を忘れてしまった楢崎は、もらったそら豆を無造作にポケットに突っ込むと、家へと戻りました。





「…それで?」

目の前にいるのは大魔人…ではなく、怒りのオーラをびしびしと出しまくっている母、寧波です(笑)。
楢崎が何も持たずに帰ってきたのを見て、当然のごとく怒り狂っているのでした。

「いや、だから…」

楢崎が怯えながらも理由を話すと、突然机が真っ二つに!(笑)
その上に乗っていたそら豆は、反動で窓の外まで飛んでいってしまいました。

「…つまりあんたは、うちの命令をすーっかり忘れて、たかだかそら豆5つ貰った程度で喜んで帰ってきたっちゅーわけやね!?」

楢崎は裂けた机を恐怖の眼差しで見つめたまま、がくがくと震えて答えられません(笑)。

「まあ済んだことは仕方無い。明日はちゃんと町へ行ってくるんやよ。うちは隣の青月のとこで飯食うてくるきに。…言うとくけどあんたは飯抜きやからね!」
「そんなあっ」

こうして楢崎は空腹を抱えたまま、眠りにつくのでした。
その夜、家の近くで異変が起きていることに気づきもせずに…。





「なんだよ、これ!?」

次の日の朝早く、今日こそは町へ行こうと早起きした楢崎は、家の隣に馬鹿でっかい木が突然生えているのに驚きました。

「昨日までなかったぞ、こんなん…」

巨木は先端が雲に隠れて見えなくなるほど、高くそびえ立っていました。
楢崎はなんとなくその木に足をかけて、数メートルのぼってみました。すると以外に登りやすいことが分かりました。
再び町に行くことをすっかり忘れ、童心に帰った気分でどんどんと登っていき、気がつくと雲の上まで出ていました。
そこまで来て、楢崎は呆然と呟きました。

「なんなんだよ、ここは…」

雲の上にもう一つ地面があるのです。

「ラピュタか?」

…そんなわけはありません(笑)。
その時雲が晴れ、遠くの方になにやら家のような建物が見えました。

「あれ?こんなとこに誰か住んでんのか」

興味を持った楢崎は、その家へと向かいました。





「でっけぇ家だなー…」

その家は屋敷と呼んでもいい程の大きさと豪華さでした。
ぼんやりと見上げていると、突然戸口が開き声がしました。

「誰だ?」

驚いて視線を戻すと、そこにはブラウン管の中でしか見たことのない、スレンダーな身体と美しい顔をした青年が立っていました。

「ああああああっ!!もしかして、仰木高耶!?」

楢崎が思わず指を差して叫ぶと、高耶は少し困ったような顔をして頷きました。

「とりあえず、中に入らないか?」



高耶が入れてくれたお茶を飲みながら、楢崎は
「どうして仰木さんがこんなところにいるんすか?」
という当然の疑問を口にしました。

「ちょっと…いろいろあってな」

しかし高耶は言葉を濁して話しません。

「いろいろって…」

興味津々といった様子で楢崎が乗り出したとき、突然後ろから声がしました。

「私が高耶さんを連れてきたんだ」

驚いて振り向くと、そこには30歳くらいの長身の男が立っています。

「直江!」

高耶も驚いたように名を呼びました。

「帰ってたのか…」
「今しがた帰ったところです」

直江は高耶に優しく微笑みながら、机を回って高耶の側に行きます。

「ところで高耶さん…」

直江は高耶の側まで来ると、優しく肩に手をかけながら言いました。

「私がいない間は、この家に誰もあげてはいけないと言いませんでしたか?」

直江の微妙な感情の変化に気づいて、高耶はびくりと身体を揺らしました。
そのまま逃げようとしましたが、その前に捕らえられ、机の上に身体をうつ伏せに押さえつけられてしまいます。

直江は高耶を押さえつけたまま、呆然としている楢崎に手を伸ばし、思い切り突き倒しました。

「直江、なにす…っ!」

高耶の抗議の声も聞かず、直江は高耶の服を突然剥ぎました。
なんと直江は高耶を押さえつけると、楢崎の目の前で無理矢理ヤリ始めたのです(爆)!

突き飛ばされて椅子ごと床に転がった楢崎は、頭を抑えながら起き上がると、次の瞬間凍りつきました(笑)。

「お…ぅぎ…」

高耶は上気した顔で食いしばった歯の間から時折声を漏らし、テーブルに縋りついていました。
後ろからの激しい抜き差し(爆)に、テーブルはがたがたと音を立てて揺れています。

高耶は凄まじい眼で楢崎を睨みつけると、

「見るな…っ。見るんじゃないッ!」

楢崎は驚愕というより恐怖で動けません(笑)。

「早く行け!」

高耶の絶叫に突き飛ばされて、楢崎は転がるようにその場を逃げ出しました。





「なんやおんし、どこ行っちょったん?」

真っ青な顔をして帰ってきた楢崎を見て、寧波は呆れた顔をしています。
誰かになんとかして欲しかった楢崎は、先ほどの恐怖(笑)をと切れがちに寧波に話しました。

全てを聞き終わった寧波は、どこか目を輝かせて言いました。

「そのシーン、ちゃんと覚えてるやろうね?」
「そんなに簡単に忘れられっかよ」

すると、寧波はげっそりとうめいた楢崎の手を引っ掴み、隣の新婚夫婦の元へと連れて行きました。


隣の新婚夫婦、青月と中川(笑)は突然の訪問に驚いた様子もなく出迎えました。

「楢崎も一緒とは、めずらしいやない」
「それどころじゃないき。この子があの仰木の濡れ場を見たちゅうんや!」

興奮した寧波の様子に、青月も目を輝かせます。

「なんやて?それホンマやの?」
「う、うん…」

訳が分からず頷くと、青月は嬉しそうに笑いました。

「とうとう例の物を使える日が来たちゅうわけやね」
「その通りや。中川、準備は出来ちゅうがか」

突然話を振られたとは思えないほど穏やかに、中川は答えます。

「いつでも準備OKですよ」
「それなら早速始めようか」

その様子に、激烈に嫌な予感がした楢崎でした。


そしてその予感は見事に適中します。

「なんっだよ、これぇ!!」

それはビデオがセットされたテレビと、幾つものコードでそれと繋がった妙な被り物でした(笑)。
これを無理矢理被せられ、テレビの正面の椅子に座らされた楢崎はじたばたと暴れて叫びました。

「まさか俺に、仰木のえっちシーンをビデオに念写しろってゆーんじゃねえだろうな!!」

「まさにその通りや。なかなか勘がええやないの」
「まあ一応、うちの子ちゅう設定やしね」

楽しげな女2人の様子に、楢崎は絶望的な気分で最後の頼りの中川を見上げますが、
「大丈夫ですよ。痛くありませんから」

中川までにこにこと笑いながら押さえつけてきます。

「往生際が悪いねぇ。何も難しいことしろちゅうてるわけやないんやよ」
「そうそう。いい加減諦めな」

もはや救いの手はなし。
楢崎は泣きそうな想いでノイズのかかったテレビへと集中させられたのでした(笑)。

その後ろでは寧波と青月が、
「いくらで売れると思う?」
「儲けはうちとあんたらで半々でええね」
などと、取らぬ狸の皮算用に夢中になっていました(笑)。





その後、彼女らの予想通りビデオは売れに売れ、楢崎の家も金持ちになりました。けれど楢崎は今でもあのシーンを夢に見て、眠れぬ夜が続いているそうな(笑)。





[終]

紅雫 著
(2000.02.04)


[あとがき]
「ありんす国へようこそ」のM1様が書かれた『夢見』で煩悩した結果『ジャックと豆の木』がこんなんなってしまいました(爆)。ああ…煩悩って恐ろしい。
副題は『ジャックと豆の木』を読んで「こいつこれじゃ泥棒じゃん」と思ったことからつけました。ほら、一応盗んだお金じゃなくて自力で稼いでるでしょ?正しくはないかもしれないですけど(笑)。
最後にM1様に心からお詫び申し上げます。あなたの作品からこんなものを作ってしまい、大変申し訳ございませんでした。


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