ある日とうとうお金が無くなり、寧波は楢崎に言いました。
「楢崎、おんしちいと町まで行って金稼いでき」 寧波の言葉に、楢崎は慌てて食ってかかります。 「だいたいあんたが無駄遣いばっかりするから金が無くなるんだ。少しは節約したら…」
そこまで言って、楢崎ははっと口を噤みました。 「ほう、うちに意見するとは随分偉くなったもんじゃねぇ。一体何様のつもりなんだい?」 (やべ…っ)
姫水軍の長の怒りに触れ、楢崎は真っ青になってぶんぶんと首を振ります。 「ガキは黙って親の言うこと聞いてりゃあええ。分かったらさっさと行ってき!」
と言って、楢崎を家から蹴り出してしまいました(笑)。
溜息をつきつつ町への一本道を歩っていると、向うからカメラを首に下げた無精ひげの男がやってきました。 「あ、おい、あんた。地元の人?」 何やら気さくに話し掛けてきます。 「そうだけど?」 楢崎が胡散くさげに答えると、その男は名刺を取り出しました。 「俺、武藤ってカメラマンなんだけどさ、実はこの辺で仰木高耶を見たって話を聞いたんだよ。あんた見たこと無い?」 仰木高耶とは、最近まであらゆるメディアを騒がせていた世界的トップスター(笑)です。老若男女を問わず、世界で知らないものはないというほどのトップスターだったその彼が、ある日忽然といなくなったことで、マスコミは大騒ぎになりました。 もちろん楢崎も知っているどころか、彼の大ファンでした(笑)。
「マジかよ!?それガセじゃねぇの?俺この辺詳しいけど、一度も見たこと無いぜ?」 武藤はがっくりと肩を落としました。 「そんじゃ俺は帰るわ。そうだ、これやるよ」 武藤が楢崎に渡したのは、5粒のそら豆でした。
「なんだこれ?」
そう言うと、武藤は町への道を引き返していきました。
目の前にいるのは大魔人…ではなく、怒りのオーラをびしびしと出しまくっている母、寧波です(笑)。 「いや、だから…」
楢崎が怯えながらも理由を話すと、突然机が真っ二つに!(笑) 「…つまりあんたは、うちの命令をすーっかり忘れて、たかだかそら豆5つ貰った程度で喜んで帰ってきたっちゅーわけやね!?」 楢崎は裂けた机を恐怖の眼差しで見つめたまま、がくがくと震えて答えられません(笑)。
「まあ済んだことは仕方無い。明日はちゃんと町へ行ってくるんやよ。うちは隣の青月のとこで飯食うてくるきに。…言うとくけどあんたは飯抜きやからね!」
こうして楢崎は空腹を抱えたまま、眠りにつくのでした。
次の日の朝早く、今日こそは町へ行こうと早起きした楢崎は、家の隣に馬鹿でっかい木が突然生えているのに驚きました。 「昨日までなかったぞ、こんなん…」
巨木は先端が雲に隠れて見えなくなるほど、高くそびえ立っていました。 「なんなんだよ、ここは…」 雲の上にもう一つ地面があるのです。 「ラピュタか?」
…そんなわけはありません(笑)。 「あれ?こんなとこに誰か住んでんのか」 興味を持った楢崎は、その家へと向かいました。
その家は屋敷と呼んでもいい程の大きさと豪華さでした。 「誰だ?」 驚いて視線を戻すと、そこにはブラウン管の中でしか見たことのない、スレンダーな身体と美しい顔をした青年が立っていました。 「ああああああっ!!もしかして、仰木高耶!?」 楢崎が思わず指を差して叫ぶと、高耶は少し困ったような顔をして頷きました。 「とりあえず、中に入らないか?」
「ちょっと…いろいろあってな」 しかし高耶は言葉を濁して話しません。 「いろいろって…」 興味津々といった様子で楢崎が乗り出したとき、突然後ろから声がしました。 「私が高耶さんを連れてきたんだ」 驚いて振り向くと、そこには30歳くらいの長身の男が立っています。 「直江!」 高耶も驚いたように名を呼びました。
「帰ってたのか…」 直江は高耶に優しく微笑みながら、机を回って高耶の側に行きます。 「ところで高耶さん…」 直江は高耶の側まで来ると、優しく肩に手をかけながら言いました。 「私がいない間は、この家に誰もあげてはいけないと言いませんでしたか?」
直江の微妙な感情の変化に気づいて、高耶はびくりと身体を揺らしました。 直江は高耶を押さえつけたまま、呆然としている楢崎に手を伸ばし、思い切り突き倒しました。 「直江、なにす…っ!」
高耶の抗議の声も聞かず、直江は高耶の服を突然剥ぎました。 突き飛ばされて椅子ごと床に転がった楢崎は、頭を抑えながら起き上がると、次の瞬間凍りつきました(笑)。 「お…ぅぎ…」
高耶は上気した顔で食いしばった歯の間から時折声を漏らし、テーブルに縋りついていました。 高耶は凄まじい眼で楢崎を睨みつけると、 「見るな…っ。見るんじゃないッ!」 楢崎は驚愕というより恐怖で動けません(笑)。 「早く行け!」 高耶の絶叫に突き飛ばされて、楢崎は転がるようにその場を逃げ出しました。
真っ青な顔をして帰ってきた楢崎を見て、寧波は呆れた顔をしています。 全てを聞き終わった寧波は、どこか目を輝かせて言いました。
「そのシーン、ちゃんと覚えてるやろうね?」 すると、寧波はげっそりとうめいた楢崎の手を引っ掴み、隣の新婚夫婦の元へと連れて行きました。
「楢崎も一緒とは、めずらしいやない」 興奮した寧波の様子に、青月も目を輝かせます。
「なんやて?それホンマやの?」 訳が分からず頷くと、青月は嬉しそうに笑いました。
「とうとう例の物を使える日が来たちゅうわけやね」 突然話を振られたとは思えないほど穏やかに、中川は答えます。
「いつでも準備OKですよ」 その様子に、激烈に嫌な予感がした楢崎でした。
「なんっだよ、これぇ!!」
それはビデオがセットされたテレビと、幾つものコードでそれと繋がった妙な被り物でした(笑)。
「まさか俺に、仰木のえっちシーンをビデオに念写しろってゆーんじゃねえだろうな!!」
楽しげな女2人の様子に、楢崎は絶望的な気分で最後の頼りの中川を見上げますが、 中川までにこにこと笑いながら押さえつけてきます。
「往生際が悪いねぇ。何も難しいことしろちゅうてるわけやないんやよ」
もはや救いの手はなし。
その後ろでは寧波と青月が、
[終]
紅雫 著 [あとがき] 「ありんす国へようこそ」のM1様が書かれた『夢見』で煩悩した結果『ジャックと豆の木』がこんなんなってしまいました(爆)。ああ…煩悩って恐ろしい。 副題は『ジャックと豆の木』を読んで「こいつこれじゃ泥棒じゃん」と思ったことからつけました。ほら、一応盗んだお金じゃなくて自力で稼いでるでしょ?正しくはないかもしれないですけど(笑)。 最後にM1様に心からお詫び申し上げます。あなたの作品からこんなものを作ってしまい、大変申し訳ございませんでした。 |
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