髪の毛が肌をくすぐるむず痒いような快感に、無意識に長い指先が抱え込んだ頭を掻き乱す。強く肌を吸われると、その指は引っ張るように髪を掴んだ。 「痛いですよ、高耶さん」 苦笑しながら耳元で囁く声が再び快感中枢を刺激し、高耶はしどけない肢体を震わせる。 「ん……っ、や…ぁ……」
蕩けきった頭は、すでに言葉を言葉として認識しない。ただ素肌にかかる吐息の熱さに、さらに体温を上げていくだけだ。
「…どうしたんですか?」 優しく問いかけてくる声にぼんやりと答えながら、指先で色素の薄い髪束を弄ぶ。
「おまえの髪、柔らかいな…」 高耶は不満そうに唇を尖らすと、今度は意識的にくしゃくしゃと直江の頭を掻き乱した。 「やめてください。絡まると後が大変なんですから」 直江は苦い顔になると、髪に絡まったままの高耶の指を外させる。すると高耶がふと首を傾げた。
「髪は柔らかいけど、頭皮は固いんだな、おまえ」 同じように首を傾げる直江の胸に顔を伏せて、高耶はうんと呟き、くすくすと笑いながら続ける。
「……頭の中身も固いけどな」 言うなり、直江は柔らかく高耶の唇を塞いだ。さらに肌を這い始める愛撫の手に、高耶は瞳を潤ませながら呟いた。 「……エロじじい………」
食品の前に日用品を買うのは当り前。すっかり主婦感覚が身に付いた高耶は、まず日用品売り場を目指す。 (あ、歯磨き粉が切れてたな。あと詰換え用シャンプーと……)
頭の中で家の備品をチェックしつつ、棚を舐めるように見ていく。ふと、シャンプーの隣の整髪剤の棚に目が止まった。なにやらチラシのような物が置いてある。それは毛○力の広告だった。
直江が風呂から上がると、いやに真剣な顔をして高耶が迫って来る。つい反射的に抱きしめようとした直江の手に、高耶は何かを押し付けた。 「これだ」 手渡されたものに視線を落とし、直江は絶句した。 「……これは………?」 それは高耶が昼間買った、○髪力だった。高耶は固まってしまった直江を無視して語り始める。 「昨日おまえの頭を触ったとき、皮膚が固いなと思ったんだ。そしたら、見ろ、これを!」 ばしっと目の前につきつけられた広告。そこには『頭皮が固い人、ご用心!』と書いてある。 「頭皮が固い奴はハゲるんだ。分かるか?ハゲるんだぞ!?そんなことになったら嫌だろう?だから、それをおまえに買って来たんだ」 高耶は腕組みすると、呆然としている直江を見てにっこり微笑んだ。 「ハゲてからじゃ遅いからな。それを使って、髪の毛を丈夫にしてくれ」 ここにきて、ようやく直江はショックから立ち直った。 (冗談じゃない、こんなもの使うなんて…!) 直江は慌てて弁明を始める。
「ですが高耶さん、頭皮が固い人が、すべて禿げになるというわけでは……」 だが高耶は聞く耳を持たなかった。それどころか、拳を握り締め直江をきつく睨み据え、力説する。
「オレはハゲたおまえなんて、絶対に嫌だからな! ついには直江の襟元を掴み、涙目になって訴える。 「絶対にハゲないと誓え、直江。オレに誓え!」
[終]
紅雫 著 [あとがき] 全国の、髪の残存数が危機に瀕している方、頭皮が固い方、及び毛○力使用中の方々に、心よりお詫び申し上げます(爆)。 ちなみにこんな広告は存在しないだろうと思われます。すべては「直江けちょん」のための小道具であることをご理解願います。
この作品は、某直江けちょんサイト(笑)にお送りしたものです。紅雫も副盟主兼書記を務めておりますので。紅雫の直江けちょん作品の、記念すべき第一弾でもあります。 |
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