2月14日はバレンタインデーである。昨今の不況でチョコの需要は減っているとはいえ、恋人達にとって大切な行事であることに変わりはない。 (別にバレンタインなんてどうでもいいんだけどなぁ…)
高耶は甘いものが好きではないし、だいたいバレンタインなんて女の行事だと思っているので、自分もそれに参加するのが少し嫌なのである。 (誕生日は指輪で、クリスマスは真赤な薔薇の花束とスーツだったよな、確か)
自分は女ではないのだ。そんなものを貰っても喜ぶはずもないというのに、あの男は『似合うから』という理由で押しつけてくる。
バレンタインは何を用意するつもりなのか。どうせまた、やたらと高いものなのだろうが。
いつもの通り食事をし、夜景を楽しんだ後、直江のマンションへ行く。
「――――なにこれ」
目の前で、直江はにこにこと笑っている。 「オレは女じゃねぇんだぞ。わざわざこんな物用意しなくても…」 だが直江の押しは強い。 「私があげたいと思ったからあげるんですよ。気にしないでください」
そんなことを言われたって、気になるものは気になるのだ。
包みの中から出てきたのは、どうみても高耶の腕には似合いそうもない高級そうな腕時計だった。 「値段なんて覚えてませんよ」 だが直江の答えは無情だった。
「気に入りませんでしたか?」 高耶が困った声で言うと、直江は呆れた顔をした。 「何を言ってるんです。似合うと思ったから買ってきたんですよ。それにほら、クリスマスに買ったスーツにもちょうどいいでしょう?」 確かにあうかもしれないが、この貢ぎ癖はなんとかならないものか。 高耶が難しい顔をして黙り込んでしまったのを見て、直江は一つ溜息をつくと、優しい声で告げた。
「高耶さん、いらないならいらないと言ってくれていいんですよ」
その言葉に促されて、高耶は正直な気持ちを言う。
「じゃあ、これは捨ててしまいましょう」
あっさりと呟いてごみ箱に腕時計を放りこもうとした直江に、高耶は慌ててしがみつく。
「何で捨てるんだよ!」 まるで当てつけのような直江の行動に、高耶は怒りが込み上げた。 「分かったよ、貰えばいんだろーが、貰えば!」
そう言うと、直江の手から腕時計を引ったくった。
「ありがとうございます、高耶さん」
高耶は何も言わない。だが、直江の腕を払いもしなかった。 (本当は、プレゼントなんかいらないのに…) しばらくじっとしていた高耶が、ぽつんと呟いた。
「別に…バレンタインじゃなくたっていいだろうが」 高耶の言葉の意味をはかりかねて、直江が問い返す。 「…別に会うのはバレンタインじゃなくたっていいし、わざわざプレゼント用意する必要もないって言ってんだよ」
ぶっきらぼうに言い捨てるが、その顔はほんのり紅く染まっている。
「私がいるだけでいい?」
高耶は目を逸らし、頬を紅潮させて呟く。 恋人達の夜は、これから始まる――――。
[終]
紅雫 著 [あとがき] じんじん様のHP「garden」のバレンタイン企画に参加させていただいた小説です。 うちではバレンタイン企画は行っていませんが、私の作品としてこちらでもUPすることにいたしました。 でもじんじん様の方が綺麗にレイアウトしてくださってる(笑)。 |
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