女王様と私






 いまさらですが、原作『最愛のあなたへ』第六章の、かの有名なキスシーンが、もしこんな台詞だったら――

「あなたの……"下僕"ですよ」
「………はぁ?」

 思いっきり眉を顰めた高耶に、直江はうっとりと告げたのだった。

「私を縛ってください。俺だけの、たった一人の独裁者――――」

こうして(?)高耶は下僕直江と共に暮らすことになった。





「直江、飯」
「はい、こちらに」
「直江、風呂」
「はい、沸いております」
「直江、新聞とって」
「はい、すぐにお持ちいたします」

 最初は、
(なんだか悪いなぁ)
と思っていた高耶も、最近ではすっかり女王様ぶりが板について、直江を顎でこき使っている。直江もまた嬉しそうに高耶の命令を聞くものだから、恋人などへはまったく発展せず、ますます主従の絆を深めていった。
 そんなある日のこと、綾子と千秋が二人の暮らす直江のマンションへとやって来た。

「どうしたんだ、二人とも」

 驚く高耶に、綾子はカラカラと笑いながら言った。

「だって今日は直江の誕生日でしょ」
「え?そうなのか?」
「なんだ、知らなかったのかよ」
「だって直江、なんにも言わないから」

 そう言って直江に目をやると、下僕はにっこりと微笑んだ。

「私の誕生日など、気にしなくてよろしいのです、景虎様」

 見事なまでの下僕っぷりに、綾子と千秋はこそこそと額を寄せ合った。

(ちょっと直江、本気で下僕になるつもりなのかしら)
(そうなんだろうよ。だって見ろよ、一緒に暮らしてんのに、ちっとも景虎に手ぇ出した形跡がねぇじゃねぇか)
(………400年も冷たくされて、ついにソッチに目覚めちゃったのね、直江……)
(まあ本人が幸せならいいんじゃねぇの?てゆーか、俺はこれ以上こいつらに関わりたくねぇよ)

 高耶は、やはり日頃世話になっているのだからということで、直江にプレゼントを贈ることにした。といっても、金を出すのは直江なのだが。

「直江、何が欲しい?」
「そ、そんな、恐れ多い」
「いいから言えよ。命令だ」

 命令とまで言われてしまっては、下僕が答えないわけにはいかない。

「あの、じゃあ……」
「うん、なに?」

 にこにこと機嫌よく微笑む高耶の顔が、次の直江の言葉でぴしりと固まった。

「ロープとか…」
「………は?」
「本当は鞭がいいんですけど、売ってませんよね。だからロープか……あ、蝋燭なんていいですね」

 直江の目は怖いくらい本気だ。
 しばらく固まっていた高耶は、ゆっくり綾子と千秋を泣きそうな顔で振り向いた。

「…………こいつ、ヘン………」
『元からだって』

 二人のツッコミに、高耶は自分がいかに危険な男と暮らしているのか思い知らされたのだった。



 結局、高耶は少しでも可愛らしく、とアロマテラピー用のキャンドルをプレゼントしたのだが、それがどのように使用されているのかは誰も知らない。





[終]

紅雫 著
(2001.05.03)


[あとがき]
……直江がぶっ壊れてますね(爆)。
でも本当に『最愛のあなたへ』の時の直江は「私を縛ってください」だの、「たった一人の独裁者」だのと回ってるんですよ。
ですので、これはあくまでも原作パロディってことで!(笑)


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