You are my dear friend






かじかんだ指に、小さく息を吹きかける。
まだ12月上旬だというのに凍りつきそうな空からは、今にも雪の結晶が舞い降りてきそうだ。
もう一度、剥き出しの指に息をかける。俯いた拍子に、長く伸ばしたゆるやかな髪がふわりと前に落ちてきた。それを掻き揚げながら、綾子は小さく呟く。

「寒いなぁ…」

不満そうに口唇をとがらせても、ぱっと人目をひく顔立ちが醜く崩れる事はない。むしろ美人過ぎるためのとっつきにくさが消え、可愛らしい印象に変わる。
ちらちらと意味ありげに視線を送ってくる、見知らぬ男達を完全に無視し、綾子はたった一人を待っていた。
400年間共に戦い続けた、たった一人の主君。
もうそんな堅苦しい関係ではなくなったけれど。
あなただから、ついてきた――――。

「ねーさんっ!ごめん、遅れた!」

目の前に突然現われた青年に、綾子は一瞬目を丸くするが、すぐに怒ったような顔をしてみせた。

「おっそーい!こんな寒い日に女を待たせるなんて、どういうつもりよ?」
「だから、ごめんって。買い物してたら時間過ぎちまったんだよ」
「買い物?私より買い物ぉ?」

腰に手を当ててぷりぷりと怒る綾子に、高耶は気まずそうな顔をして、後ろにあった左手を前に持って来た。

「これ」

ぽんっと渡されたブーケに、綾子は再び目を丸くして高耶を見つめた。
高耶は照れくさそうにそっぽを向きながら、言い訳がましく呟いた。

「ねーさんが誕生日だって話したら、美弥が絶対プレゼントは花束にしろって言うからさ」
「景虎…」

ホワイトピンクのバラを中心にしたブーケは、花嫁が持つように可愛らしくアレンジメントされていて、男の高耶が持つには恥かしくてたまらなかったことだろう。
それでも自分のためにそれを注文して持ってきてくれたのだ。
寒さで凍えていた心が、太陽の光に当たったように溶かされていく。

「ありがとう、景虎。すごく嬉しい…」

ようやく満面の笑顔を浮かべた綾子に、高耶もほっとして微笑んだ。
生前から、いつだって自分の側にいてくれた。
直江とは違った意味で、ずっと支えになっていた。
大事な人を亡くしたときも、代わりに涙を流してくれた。
優しくて、とても大切な仲間――――。

「誕生日おめでとう、ねーさん」





[終]

紅雫 著
(2000.12.09)


[あとがき]
綾子姉さんのお誕生日小説です。
久しぶりにえらくまともな小説を書いた(爆)。高耶さんと綾子姉さんのらぶらぶ(?)デート、一度書いてみたかったんですよね。
原作ではやっと織田から解放されたとはいえ、まだまだ辛い事ばっかりですが(というか、今の原作で辛くないのって信長公と譲くらい…?)。
それでも綾子姉には最後には幸せになって欲しい。笑って欲しいと思います。
お誕生日おめでとう、綾子姉さん♪


目次


サイトに掲載されている全ての作品・画像等の著作権は、それぞれの製作者に帰属します。
転載・転写は厳禁させていただきます。
Copyright(c)2000 ITACHI MALL All rights reserved.