(今年は何をプレゼントしよう?) 高耶を喜ばせることが自分の幸せである直江にとって、誕生日は絶対に外せないイベントだ。このとき渡すプレゼントは、クリスマスよりバレンタインより、何よりも彼を喜ばせるものでなければならないと直江は思っている。 (あまり高い物だと、かえって恐縮してしまう人だからな。かといって、あまり安物をプレゼントする気にはならないし。そもそも、あの人はあまり物に頓着しないから、どこか温泉でも連れて行ってあげたほうがいいかもしれない)
二人っきりで温泉旅行。これはいい。第一希望にしておこう。
「なーなー、なおえぇ」
これは珍しい。高耶がおねだりモードになっている。 「なんですか?なんでも買ってあげますよ」 まるで子供を誘拐する変態オヤジのようである。
「ほんとか!?」 ぱぁっと顔を輝かせた高耶は、嬉しそうにのたまった。
「麻雀が欲しい!」
凍りつくこと数十秒。
「麻雀、ですか?」
上目遣いのうるうる目でそんなこと言われたら、直江でなくたって「駄目」とは言えないだろう。 かくして高耶の誕生日は、夜通しの麻雀大会に決定した。
7月22日深夜。 (これは高耶さんが望んだことだ。高耶さんの幸せが俺の幸せなんだ。見ろ、あんなに楽しそうじゃないか。あの人の笑顔が見られれば、それでいいんだ、それで) そこに遠慮もなく声がかかる。
「ちょっと直江、お酒足んないわよ。なんか持ってきて」 一見殊勝な台詞を吐いている譲だが、直江をパシリに使うことに疑問を感じていないあたり、千秋と綾子の影響が隅々まで行き渡っているとみえる。 「俺はお前たちのパシリじゃないぞ」
さすがにむっとして、直江は凄んだ。
「なおえぇ、オレ、ビール飲みたい」 かなり酔った高耶が潤んだ瞳で頼んでみれば、嬉々として腰をあげるのであった。
「直江、なんなのその態度」 酔っ払っている高耶は、綾子が何を言っているのかよく分からないままにっこりと頷く。綾子は勝ち誇った。
「ほらみなさい、必要ないのは直江でしょ。邪魔者はあんたのほうよ!」 譲もたいがい失礼だ。もしかしたら、結構酔っているのかもしれない。
「でもろくにつまみもつくれないし」 延々と自分をこき下ろす千秋と綾子に、直江はとうとうキレた。だがしかし、酔っ払いに何を言ってもムダなのである。
「うるさいのはあんたよ!」 高耶まで一緒になって声を張り上げる。 (あいつら、いつか殺す…!)
高耶以外の全員をこの部屋から蹴りだす想像でなんとか自分を宥めつつ、直江は密かに誓った。 (あなたの幸せが私の幸せ、あなたの幸せが私の幸せ……)
直江は心の中で必死に唱え続けた。 (いま何時だ!?) 慌てて台所からリビングに飛び出したその時。
「お、日付が変わったぞ」 じゃらじゃらじゃらじゃら
景気のいい音を立てて、牌がまぜられる。牌をまぜる音は相当うるさい。
[終]
紅雫 著 [あとがき] 2001年高耶さんお誕生日小説でした♪ アニバーサリー恒例の直江けちょん小説ですが…。微妙に直江が不幸すぎるかも?(笑) いやでも、それくらいで落ち込むなよって感じですよね。 「高耶さんの幸せが自分の幸せ」だと言うのなら、楽しそうな高耶さんを見られただけで満足しろ(笑)。 |
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