みら〜じゅ源氏小劇場 ―藤壷の幕―
キャスト
桐壷帝=鮎川/源氏の君=直江/藤壷の宮=高耶
むかしむかし、平安王朝真っ盛りの世の春に、時の帝である桐壷帝(鮎川)から寵愛された御方が、玉のような御子をお産みになられました。しかし地位も低く後ろ盾もなく身体も弱っていたその御方は、御子と引き換えのようにこの世を去ってしまわれました。
寵愛した御方の忘れ形見を、帝はそれはそれは可愛がりました。世継ぎ争いで傷つかぬよう、源氏の姓を与え臣下としたものの、その愛情は東宮より深いほどでした。
玉のような赤子だった御子は、当然のようにそりゃもう美しい少年に成長いたしました。その様を見て、皆は光る源氏の君(直江信綱)とお呼びするようになりました。
そんなある日、帝は新しい御后をお迎えになられました。この御方、なんと源氏の君の母君にそっくりだったのです。帝、まさに執念の男。
源氏の君は母君の顔をご存知ありません。しかし、帝の新しい御后である藤壷の宮(仰木高耶)のその美しさと優しさに惹かれ、本当の母君のようにお慕いしました。
月日が経つのは早いもので、源氏の君は十三の御年になられ、元服を迎えられました。元服を終え成人男性となった源氏の君は、それまでのように藤壷の宮とお会いすることができなくなってしまいました。
源氏の君は、悲しみを訴えました。
「なぜ御簾をあげてくださらないんですか」
「おまえな、何度言わせりゃ分かるんだ。おまえはもう大人の男だ。帝の后であるオレが、臣下の男と御簾上げて対面できるわけねーだろーが」
そっけない藤壷の宮の御返事にも、源氏の君はめげません。それどころか、とんでもないことを言い出しました。
「私はあなたを愛しているんです。母親としてじゃない、一人の女(男?)として!」
「あのな、オレはおまえの親父の妻なんだっちゅーの!」
「それがなんだっていうんです。あなただって私を愛しているんでしょう?」
「なっ…!」
「それともまさか、私より脂ぎって腹もでてきた中年男真っ盛りの父の方がいいとでも言うんですか!」
「………おまえ、仮にも自分の父親をそこまで言うか?」
「どうなんですか。私より、父の方が好きなんですか。はっきりしてください!」
藤壷の宮は観念したように小さく呟きました。
「……そりゃあ…おまえの方が…好きだけどよ…」
「ならなんの問題もありません!」
叫ぶなり、源氏の君は御簾を捲り上げ机帳を蹴倒し、ついに藤壷の宮様をその腕の中に捕らえました。
「こら!やめろ、馬鹿、直江!」
「直江じゃなくて源氏ですよ、高耶さん」
「それを言うならオレは藤壷……じゃなくて!本当にやめろってば!」
「ここまできて、止められるわけがないでしょう?」
「やだっ!やめ………わああああああああ!!」
こうして藤壷の宮は、実の子供のように可愛がっていた源氏の君にヤられてしまったのでした。
さて、その数日後のこと。
源氏の君は御父君である帝にお会いになりました。
「主上。いえ、父上。折り入ってお願いがあるのですが」
「なんだ?珍しいことだな」
「藤壷の宮を私にくださいませ」
「…………は?」
いきなりの源氏の君の言葉に、帝は我が耳を疑いました。
「お耳が遠くなられましたか?」
「違う!……おまえな、突然何を言い出すんだ。『ください』と言われて『はい、どうぞ』なんて言うと思ってたのか?」
そうです、帝は執念で源氏の母君そっくりの藤壷の宮を探して来たのです。もちろんその愛は母君に注いだものと同じくらい深いものでした。
ですが、源氏の君は引き下がるわけにはいきません。拳を握り締めて力説しだしました。
「父上、私達は愛し合っているんです!そりゃあの人は最初は拒みましたが、心の底では私のことを愛していた!そして私の愛に応えてくださったんです。………くちづけたあとのあの人の唇はまるで朝露に濡れた薔薇の蕾のように私を誘い、その肌はまるで汚れなき大輪の百合のように薫って私をまどわし………」
――――ページの都合により割愛――――
源氏の君の、説得なのかノロケなのか自慢なのかそれとも単なる自己陶酔なのかわからない演説が終ったのは、日も暮れかかった頃でした。
「………というわけです。分かってくださいますか」
「……………あー………わかった。わかったから、もう好きにしろ………」
もはや疲れきってしまった帝は、とうとう藤壷の宮を手放すことにしたのでした。
源氏の君、執念の勝利。
このしつっこさは家系だと、藤壷の宮は深い深い溜息をおつきになったそうな。
[あとがき代わりの舞台裏座談会]
鮎川「なんで俺が直江の親父なんだ(怒)。ラストは全然話が変わっちまってるし」
直江「意外と執念深いところが似てるからだろう。そんなことより、高耶さんに指一本触れてないだろうな?」
鮎川「してないしてない、何にもしてない!恐ろしくってできるわけがないだろ!」
直江「ならいいが…。話の展開上仕方がないとはいえ、不愉快極まりないな」
高耶「一番不愉快なのはオレだ。どーして女役なんだよ。おまえらはいいよな、そんな簡単な衣装で。俺なんか着物は重いわ、かつらは重いわ…(ぶつぶつ)」
直江「お疲れ様です、高耶さん。脱がすの手伝ってあげましょうか?」
高耶「いいっ!よせっ!触るんじゃねぇ!(焦)」
直江「遠慮しないで♪」
高耶「遠慮じゃなくて嫌がってんだ!…って言ってる端から裾をめくるな―!」
鮎川「……あー、じゃあ、俺はこれで……」(鮎川退場)
高耶「待て、逃げるな!この馬鹿をなんとかしてくれっ!」
直江「これで二人っきりですね、高耶さん……」
高耶「いい加減にしろぉ!(涙)」
(衣擦れの音と喘ぎ声が闇に消えて、終幕)
|