みら〜じゅ源氏小劇場 ―夕顔の幕―






キャスト
源氏の君=高耶/夕顔=美奈子/六条の御息所=直江




昔々の平安時代に、顔良し、頭良し、性格良し、家柄良しと、三拍子どころか四拍子も揃いに揃った公達がいらっしゃいました。その御方は光源氏の君(高耶)ともてはやされ、老若男女から慕われておいででした。
そのように素敵な御方でしたから、「一夜だけでもいいから恋のお相手に!」と勢い込む姫君方も多く、望むと望まざるとに関わらず、源氏の君は不自由のない生活を送っておいででした。

さて、ある日なじみの高貴な方のお屋敷から帰る夜、とある東屋で源氏の君は運命的な出会いをされました。
この頃源氏の君は、まるで自分を「一回ヤったら飽きてポイ」するプレイボーイのような目で見る姫君方に、ほとほと嫌気がさしておりました。実際源氏の君自身は、多くの女性と関係を持つより、たった一人の大切な女性を愛したいと思っていらしたのです。
しかしこの夕顔の咲く東屋にひっそりと住む女性は、それまで出会った女性達とは違っておりました。教養がありながら控えめな物腰も、儚げな微笑みも、それでいて芯のしっかりとした性格も、春の海のように優しい瞳も、清楚な花のように美しい顔立ちも、すべて源氏の君の好みにジャストミートな大和撫子でございました。
源氏の君はこの御方を夕顔(美奈子)とお呼びになり、それはそれは深く寵愛いたしました。
そしてある日、二人きりで過ごすために、わずかな供のみを連れ、小さな山荘へとやってまいったのでございます。



夜も更けると、風が強まったのか、妻戸がガタガタと音をたて始めました。夕顔は怖がり、源氏の君にそっと寄り添いました。

「美奈…じゃなくて、夕顔…」
「はい…」

二人の顔が徐々に近づき、そっと重なろうとしたその時。

『たーかーやーさぁぁぁん!あなたという人はぁぁぁぁぁ!!!』

どこかエコーがかかったような、野太い男の絶叫が山荘に響き渡ったのでございます。

「なっ、なんだ!?」
「…っ!きゃああああああ!!」

その声の主を認めた途端、元から身体が丈夫ではなかった夕顔は、あまりの恐怖に悲鳴を上げて儚くなられてしまいました。

「そんなっ、夕顔、夕顔!しっかりしろ、目を開けてくれ!夕顔―――!!」

自らの腕の中で短い一生を終えられた夕顔を、源氏の君は涙を浮かべて必死で呼び起こそうとしますが、もはやその瞳が開かれることはありませんでした。

『いい加減にしなさい、高耶さぁぁぁん!』
「んだと、てめ…っ!っぎゃあああああああっ!!」

元凶の方を振り向かれた源氏の君もまた、悲鳴を上げて後ずさりました。
そこには、ぼんやりと発光する女性らしき人影がございました。
身の丈が熊のように大きいその影は、彫りの深い顔に白粉と紅を塗ったくっており、さらにそれが下から光るように照らされて不気味な事このうえありませんでした。
その物体は、源氏の君の悲鳴に呆れたように肩をすくめてみせました。

『なんですか、その悲鳴は。失礼な人ですねぇ』
「失礼なのはてめぇの顔だ。うわっ、寄るんじゃねぇ、バケモノ!」
『バケ…ってあなた、こないだまで毎日のように会ってたでしょうが!私ですよ、私。六条の……』
「んなこた解ってるんだ、この変態オカマ野郎!」

そう、最愛の夕顔を死にいたらしめたのは、源氏の君の愛人の一人である、六条の御息所(直江)の生霊(の顔)だったのでございます。

「てめーの(顔の)せいで、夕顔が死んじまったじゃねぇか!どうしてくれるんだ!」
『あなたがいけないんですよ!私というものがありながら、そんな下賎な女と……!!絶対に許せない。あなたは私のものです。それを今ここでわからせてあげる!』
「何を言って……っわぁあああああっ!?」

突如発光が止み、実体を伴った六条の御息所は、源氏の君が逃げる隙を与えずに覆い被さってきました。

「おまえ、生霊じゃなかったのか!?」
「身体がなければイイコトができないでしょう?あなたのために身体を呼び寄せたんですよ」
「そんなアホな…!っぎゃあああっ、ヤメロッ!その顔を近づけるんじゃねぇ!」
「暗ければ見えませんって、こんなもの。そのうち落ちますよ」
「やだっ!ヤッ・・・・・・…アァ!」

こうして源氏の君は最愛の恋人を失ったあげく、化け物…もとい嫉妬に狂った六条の御息所の思うが侭になってしまったのでございました。





[終]

紅雫 著
(2002.01.26)


[あとがき代わりの舞台裏座談会]
(天国に帰還する時間のため、美奈子は欠席)

直江「やれやれ、鬘って重いものなんですねぇ」
高耶「………………」
直江「高耶さん?どうかしたんですか?」
高耶「こっち向くな、バケモノ」
直江「……………高耶さん、ひどい……………」
高耶「うるせーな。おまえマジで恐ぇんだよ、不気味なんだよ、気持ち悪ぃんだよっ。まさに顔面凶器そのものって感じ?」
直江「た、高耶さんっ、そこまでいいますか!?」
高耶「ホント吐気してくっから、当分その面見せんなよ。当然エッチも無し!」
直江「そんな!(涙)」
高耶「自業自得だ、馬鹿」

(すたすたと高耶が退場し、残された直江の足元を木枯らしが吹き抜けて閉幕)


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