Last Song






ねえ キスをして 抱きしめて
どこにも行かないように
その腕の中に閉じ込めて

ねえ 側にいて 離さないで
いつものように優しく
「愛している」と言って欲しい

貴方が欲しい 貴方しかいらない
最後のわがままを どうか叶えて

全て叶わないのなら せめてその胸で眠らせて









流れる切ないメロディ
少し掠れた甘い声
瞼に焼きついたあなたの微笑みが、今も消えない――――










<序章>



小さなバーで、初めて出会う。

「今日、オレの誕生日なんだ」

美しい瞳の青年は、そう言って微笑んだ。
どこか哀しいその笑顔に惹かれて、次に会う約束をした。
一週間目にキスをして、一ヶ月後に二人でマンションを探す。
そしてあれから一年。
気がつけば、いつでもあなたのことを考えている自分がいる。




「誕生日、何が欲しいですか?」

優しい微笑みを浮かべた直江信綱に、仰木高耶は嬉しそうに微笑んだ。

「内緒」
「内緒?どうして」
「23日になったら教えてやるよ」
「23日なってから用意できるもの?」
「大丈夫」

浮かべた微笑みがあまりにも透明で、そのまま消えてしまうような錯覚に陥る。
引き止めるように腕を掴んだ直江に、高耶は不思議そうな顔をしながら素直に身を任せた。

「なぁ、直江」
「なんですか?」
「23日、日曜日でよかったな」
「そうですね。でも24日の休みを申請しないと」
「なんで24日?」
「だって、きっと疲れて動きたくないから」

その言葉に高耶は笑ったようだった。
だが胸に顔を伏せていたため、直江には見えなかった。
その瞳に浮かぶ小さな光も。




ねえ キスをして 抱きしめて
どこにも行かないように
その腕の中に閉じ込めて



これは魂の歌。
きこえないほど小さな声で歌う。
抱えきれないほど大きな願いを込めて歌う。

もうすぐ23日がやってくる。
哀しい魂を知る全ての人が、その瞬間を待っている。





[続]

紅雫 著
(2000.08.15)



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