Last Song






<1章>



空気の入る隙間もないほどぴったりと寄り添って、その日を迎える。
針と針が重なった瞬間。

「お誕生日おめでとうございます、高耶さん」
「ありがとう…」

間近で見つめ合い、柔らかく唇を重ねた。
直江の瞳は愛しさに溢れ、高耶を安心させる。
しがみつくように首筋に顔を埋めてしまった高耶の髪を梳きながら、直江は優しく尋ねた。

「もう教えてくれるでしょう?プレゼントは何が欲しいんですか?」
「うん……」

小さく頷いて顔を上げた高耶は、ほんのりと頬を染めて微笑んだ。

「おまえ」
「私?」

驚いて目をみはる直江に、高耶ははっきりと告げる。

「そう。おまえが欲しい」
「私はもうとっくにあなたのものですよ?」

直江は、いつも何も欲しがらない高耶が、自分に物を買わせないための言葉なのかと思った。
だが高耶は首を振り、真剣な眼差しで訴える。

「もっと欲しい。全部欲しい。今日一日は、オレだけを見て。オレのことだけ考えててくれよ」

潤んだ瞳は、愛しさと哀しみに溢れている。
それが零れ落ちる前に、直江はそっと唇を寄せた。

「私はいつでもあなたのことを考えていますよ。あなたしか見えないし、あなた以外のことを考える余裕なんてない」

どんなに言っても、高耶は哀しい瞳で見つめ続けてくる。

「……おまえ以外は、いらないんだ。欲しいものをくれるんだろう?」
「高耶さん………」

何がそんなに不安なのだろう。
こんなに自分の愛を強請る高耶は初めてで、直江は戸惑いを隠せない。
だが同時に、心の中で狂喜している自分がいる。
誰よりも愛しい人に、なによりも欲しがられる。
これ以上の喜びを、自分は知らない。
直江は心を身体越しに伝えるように、高耶を強く抱きしめた。

「もちろんです。そんなに言うのなら、今日はもう離さない。あなたが嫌だといっても、この腕の中から出さないから」
「直江……」

強い抱擁に、高耶はようやく安心したように溜息をついた。

それでいい。
それこそが望むもの。
言えない秘密を抱えた胸が痛む。
それでも心は癒されていく。
ただひとりだけが欲しい。
他のものなど、何もいらない。
今日一日だけ。
この男を独占する――――。



「どうして欲しい?あなたがしたいようにしてあげる。私はあなたのものだから。あなたの願いを、全部叶えてあげる」

甘い囁きに、高耶は嬉しそうに抱きついた。

「キスして」

その通りにキスが降ってくる。

「抱きしめて」

苦しさに喘ぐほど抱きすくめられる。

「『愛してる』って言って。ずっと。オレが飽きるまで。
そうして――――いっぱいオレを愛して」

(壊れるまで――――)

愛しい男の手が身体中を這い回り、意味のある言葉は喘ぎの隙間に消えていく。

「愛している……」

望んだ耳元の熱い囁きに、歓喜の涙を零して震える。

(愛している――――)

この夜が永遠に明けなければいい。
必ず朝は来るとわかっていても、願わずにはいられない。
永遠など無いとわかっていても、祈らずにはいられない。

(どうか、神様――――)

絶望と希望の狭間で。
青年は祈っている。





[続]

紅雫 著
(2000.08.17)



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