The Thunderbolt!おまけ 〜Dr.中川の優雅なるティータイム〜






その日、たまたま宿毛砦に来ていた中川は、嶺次郎と寧波と青月と共にお茶を飲みながら談笑していた。
さきほど落ちた雷について話していたとき、突然携帯に呼び出された。

「もしもし?」

答えた途端、穏やかな中川の声と対照的な、有無を言わせない低音が聞こえてくる。

『宿毛砦の橘だ。今夜一晩休暇を貰う。仰木軍団長も一緒だ。いいな?』

中川はあまりに一方的な内容に眉を顰めたものの、すばやく頭の中で状況を判断し、最上の結論を導き出す。この辺りはさすが医者といったところだ。

「ちょっと待ってくださいね」

中川は嶺次郎に向き直ると、にっこりと微笑んだ。

「嘉田さん、今夜一晩だけ、仰木さんと橘さんに休暇をあげてもいいですよね?」
「なんじゃ、そりゃあ。そんなことできるわけ…」
「嘉田さんからOKがでました。どうぞごゆっくり。でも明日の朝には戻ってきてくださいね」

目を剥いて反対しようとする嘉田を無視して、中川は勝手に返事をしてしまった。中川の答えに満足したらしい橘は、あっという間に電話を切ってしまう。

「おい、中川!」

喚く嶺次郎をまあまあといなして、中川は冷めてきたお茶を一口すすった。

「仰木さんにだって、たまにゃあ休息が必要でしょう。最近ずいぶん疲れて苛々しちょりましたから。それに今度は窪川であんな雷落っことされたらどうするがです」

嶺次郎はうっと詰まってしまった。
さきほどの雷のことだ。今回は事無きを得たが、下手をすれば死傷者が出たのではないかというくらい、すさまじいものだったのだ。あれがたった一人の力で起こったというのだから恐ろしい。上杉景虎の力は噂以上だったということか。

「ふん。やはりあの現代人、仰木の男じゃったようじゃねぇ」
「うちらの船に落ちんでよかったねぇ、本当に」

笑いを含んだ寧波と青月の言葉に、中川はうんうんと頷いた。

「ここらで仰木さんには機嫌を直してもらわんと。窪川からもちらほら、仰木さんの様子がおかしいちゅう報告もきとりますし」

それでもまだ苦い顔をしている嶺次郎に、中川は安心させるように微笑んだ。

「心配せんでも、明日には何もかも元どおりになっちょりますよ。きっと」
「そうそう、夫婦と襖は嵌めれば直るっちゅうしね」
「雷はもうたくさんじゃ。今度は死人が出るがよ」

三人の包囲網に、嶺次郎はとうとう両手を挙げて降参した。

「分かった分かった!橘と仰木は今夜だけ自由行動じゃ。これでええがか?」
「ありがとうございます」

当たりは柔らかいが、実は押しの強い中川である。ある意味、赤鯨衆の影の実力者と言っても過言ではなかった。
そんな中川を、寧波や青月等白鮫衆は気に入っている。そのせいで、ますます中川の地位は高くなるのだった。
さて、いつものように我が意を押し通した中川は、冷めてしまったお茶を飲み干してから、ふと気づいたように付け足した。

「あ、嘉田さん。檜垣さんと兵頭さんには嘉田さんから伝えてくださいね。じゃないとまた余計な騒ぎが起こりますき」

にっこり笑ったその顔は、厄介ごとを人に押し付けて晴れ晴れとしていた。



嶺次郎ではなく中川に電話をした直江と、勝手に了承してあとから嶺次郎を説得した中川と、どちらがより確信犯であったのか。それは皆様の判断にお任せする。





[終]

紅雫 著
(2001.01.04)


[あとがき]
普段はとても優しいんだけど、実は冷静に物事を判断してて、時に皆が驚くような行動力を見せる。私の中川先生に対するイメージはそんな感じです。
しかしこれ、ちょっと違う…?(笑)


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