Fanatic Nighit


【前編】
注:これは『怨讐の門』の頃のパロディだと思ってください。





『赤鯨衆特別謝恩大宴会』

というポスターが貼られたのは、伊達との戦闘が一段落し、隊士達が束の間の休息を楽しんでいるときだった。

「なんじゃあ、こりゃあ」
「お、見いや。主催者の名前」

主催者は姫水軍の長、寧波。幹部と一部の隊士は強制参加なっているが、その他の一般隊士は参加するには宴会費5000円となっていた。
ポスターを見てみれば、可愛い女の子の絵がまるで誘っているかのようなきわどい水着を着て微笑んでいる。

(こりゃもしかして…)

姫水軍の綺麗どころがお酌をしてくれるのではないか。
これは参加しない手はない。
隊士達は顔を見合わせると、嬉しそうに笑いあった。
だがこのとき、誰もが目の前の水着姿に気を取られ、なぜ幹部が強制参加なのかまでは深く考えなかったのである。


「強制参加―――?」

部屋にポスターを持ち込んで宴会だと嬉しそうに騒いでいる武藤潮に、高耶は不審そうな声で尋ねた。

「おう、ここにはそう書いてあるぜ。だからおまえも俺も参加しなきゃならないんだろ?」

潮の場合、「しなければならない」ではなく「できる」という感じの喜びようだが。
しかし高耶はそっけなく答えた。

「そんな暇はない」
「えぇ〜!?そんなこと言うなよ。せっかく戦闘も一段落ついたんだしさあ、みんなでパアッとやろうぜ。なっ?」
「……」

だが高耶は不審そうな顔を崩せない。
なぜ幹部は強制参加なのか。そして一般隊士は宴会費を払った者のみ自由参加なのに、卯太郎と楢崎はなぜ強制参加になっているのか。
さらに主催者は寧波だという。絶対に何かあると高耶は思った。

そのとき、資料を持った兵頭がやって来た。

「失礼します、隊長」
「兵頭か」

途端、潮がむっとした顔になる。兵頭はそんな潮を頭から無視している。あいかわらず仲が良くなるなんてことはないらしかった。
ふと高耶は思いついて、兵頭に尋ねてみた。

「おまえはあれに参加するのか?」

あれ、というのがポスターを指していることに気づいた兵頭は、めずらしく渋面になって頷いた。

「出ないと後がうるさいですから」
「…ということは、オレも出たほうがいいってことか」
「なるべくならば、そうしたほうがいいでしょう」

しかし兵頭もここまで嫌がるとは…。高耶はますます不安になった。

「一体何をやるんだ?」
「さあ、それは分かりませんが」

それでも嫌な予感はするというわけだ。
1人浮かれている潮を残して、高耶と兵頭はこっそり溜息をつくのだった。



当日、宴会場の入り口では、なぜか幹部だけくじを引かされた。

「おい、これに一体何の意味があるんじゃ」

さすがに不審そうに幾人かの幹部が尋ねるが、入り口の女達はにっこり笑うだけで答えない。
そして引いたくじには、○か×が描いてあった。
どうやら○の数の方が少ないらしく、×だった者はそのまま宴会場に、○だった者は姫水軍の案内係にどこかへ連れ去れてしまった。

結局潮に無理矢理引きずられてきた高耶も、問答無用でくじを引かされた。高耶は○だった。

「仰木さん、○ですか!?」

目ざとく見つけた姫水軍の女達が、なぜかキャーと嬉しそうな歓声を上げる。

(どういうことだ?)

再び嫌な予感がして高耶は身を引こうとしたが、女達にあっさりと腕を取られる。

「特別席にご招待〜♪」
「お、おい…」

そのままずるずると、宴会場から少し離れた会議室へと高耶は連れ去られてしまった。


そこで高耶が目にしたのは、信じられないような光景だった。

「………ひ、檜垣……?」

まず目に入ったのはごつい熊のような筋肉のついた身体に、なぜかレースとフリルがこれでもかというほどついているピンクのドレスを着た、檜垣小源太だった。
角刈りのはずの頭には服と合わせたのか、金髪の縦ロールのかつらをかぶり、顔にはしっかりと厚化粧が施してある。
それはどこからどう見ても、ゲイバーのお姉さんという雰囲気だった。

「おう、なんじゃ。おまんも当たりくじかい」

檜垣はすでに開き直っているのか、高耶の姿を見るとその不気味な顔を笑みの形に歪めた。

「…当たり、くじ……?」

高耶は驚愕から立ち直れず、オウム返しに問い返す。
しかし檜垣が何か言うより早く、高耶は突然後ろから何かに抱きつかれた。

「わああああん!仰木さあぁん!!」
「卯太郎!?」

振り返ると、膝上30cmまで短くされたセーラー服に紺のロングソックスを履き、肩までのかつらにリボンをつけた卯太郎が泣きながらしがみついている。
その後ろでは茶髪のかつらをかぶり、白いブラウスに赤いリボンを胸元に結び、チェックのミニスカートにルーズソックスという、これまたコギャルな格好をした楢崎が心底嫌そうに佇んでいた。

「おまえら、その格好…」
「無理矢理着せられたがです〜っ!!」

泣きじゃくっている卯太郎の言葉に、高耶は背筋が寒くなった。

(つまり、そういうことか!?)

その時後ろから恐怖の声が聞こえた。

「よう来たねぇ、仰木。あんたが来るのを楽しみに待っちゅうたんよ」
「寧波。これはどういうことだ」

高耶の凄みにも、姫水軍の長は動じない。
にやり、と笑ってあたりを見回した。

「見て分かんないかい?今日の趣向だよ」
「趣向だと?」
「そう。今日は一般隊士達の特別謝恩大宴会やからね。幹部がもてなすのさ。でもそのまんまじゃ芸がないだろ?そのための女装じゃき、文句は言わせんよ」

最初から文句を言う暇すら与えなかったくせに、寧波は駄目押しのように言った。

「まさかいまさら逃げたりはせんよねぇ?遊撃隊長ともあろう者が、たかが女装もできんゆうて逃げたら、わざわざ金払って来とる隊士達はなんて思うか…」
「……!」

いかにも馬鹿にしたように強調された言葉に、高耶は鋭く反応する。
乗せられているのは分かっていた。だがしかし、ここで引くのはプライドが許さない。
高耶は顎を逸らし、挑戦的に寧波を睨みつけた。

「…やってやろうじゃねぇか。だが格好をするだけだ。それ以上を要求するようなら、この宴会自体を中止にする」
「分かっちゅう。着替えて宴会に出るだけでええよ」

寧波もさすがに妥協した。
こうして、二度と拝むことはできないであろう、仰木高耶の女装姿がこの日実現したのである。



今回の宴会場は、今までと違った趣向が凝らされていた。
まず部屋はBER風に改装され、カウンターが作られている。その近くに幹部席が設けられ、一般隊士は部屋にいくつも散らばる6人掛けほどのテーブルに、好き好き着席するようになっていた。

最初は会場の様子に戸惑っていた隊士達も、酒が出された後はいつも通りのどんちゃん騒ぎになっていた。
カウンターに陣取った兵頭は、そんな様子を見るとも無しに見ていた。
そこに主催者の寧波がやってくる。兵頭の隣に座ると、機嫌が良さそうに話し掛けて来た。

「ようやっと準備が終わったよ」
「ずいぶん時間がかかったな」
「趣向を凝らしてみたからね」
「…消えた幹部はどうなった」
「それならもうすぐ来るよ。それが今回のメインじゃきにね」

寧波の台詞に、何やら恐ろしい予感がした兵頭だった。

そのとき、突然会場の電気が消された。

「な、なんじゃ!?」
「停電か?」

騒ぐ隊士達をよそに、立ち上がった寧波がマイクを手に司会を始めた。

「今日はみんなよう来た。今から今日のために連れて来た綺麗どころが入ってくるき、入り口に注目しな」

その言葉を合図に、会場の入り口付近にスポットライトが当てられる。
誰もが期待に胸を膨らませそこに注目したとき、華々しい音楽が鳴り響き、扉が一気に開け放たれた。

そして入って来たのは小源太をはじめとする、ゲイバーの姉さん風幹部達だった。

『な、なんじゃあ〜〜〜!?』

驚く隊士達を尻目に、ずかずかと入り込んで来た小源太達は酒瓶を持ってテーブルをまわる。

「今日は無礼講じゃ!じゃんじゃん飲めい!」

コップに溢れるほどついでは、にやっと無気味な笑いを見せる。
間近でそれを見てしまった隊士の1人が、失神して倒れた。
そこかしこで野太い悲鳴が上がっている。どうやら調子に乗った女装幹部達に抱きつかれて、恐怖のあまり泣き叫んでいるらしい。

一番不幸なのは足摺衆だった。頭の小源太に

「わしの酒が飲めないっちゅーんかい!」

と凄まれ、泣く泣く小源太の相手をさせられていた。

このとんでもないばか騒ぎに、さすがの兵頭も呆れ返る。

「寧波…」
「面白いだろう♪」

もはや何を言う気にもならず、兵頭は視線をさまよわせた。
と、そこに小源太が近づいてくる。

「おう、隼人!おまんもこっちゃ来て飲まんかい!」
「近寄るな、気色悪い」
「なんじゃ、冷たいのう」

全くじゃ、といって笑いあう小源太と寧波に、兵頭はうんざりしたように顔を逸らした。
そこで小源太は高耶がいないことに気づいた。

「仰木はまだか?」
「ああ、もうすぐ来るよ。青月が気合入れて準備しちゅうから、時間がかかっちゅう」
「まさか、仰木も…?」

兵頭が顔を強張らせると、寧波は嬉しそうに笑って入り口を指差した。

「ほら来た」





[続]

紅雫 著
(2000.02.24)


[あとがき]
カウントゲッターミヤオ様のリクエストで「赤鯨衆物」です。
・・・・・・それがどうしてこんな話になってしまうのだろうか・・・。自分の脳みその腐り方がよく分かる作品ですね(苦)。しかも続いてるし。
果たして高耶は小源太の女装に勝てるのか!(←違うだろーが!)
次回をこうご期待(笑)!


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