【前編】
というポスターが貼られたのは、伊達との戦闘が一段落し、隊士達が束の間の休息を楽しんでいるときだった。
「なんじゃあ、こりゃあ」
主催者は姫水軍の長、寧波。幹部と一部の隊士は強制参加なっているが、その他の一般隊士は参加するには宴会費5000円となっていた。 (こりゃもしかして…)
姫水軍の綺麗どころがお酌をしてくれるのではないか。
部屋にポスターを持ち込んで宴会だと嬉しそうに騒いでいる武藤潮に、高耶は不審そうな声で尋ねた。 「おう、ここにはそう書いてあるぜ。だからおまえも俺も参加しなきゃならないんだろ?」
潮の場合、「しなければならない」ではなく「できる」という感じの喜びようだが。
「そんな暇はない」
だが高耶は不審そうな顔を崩せない。 そのとき、資料を持った兵頭がやって来た。
「失礼します、隊長」
途端、潮がむっとした顔になる。兵頭はそんな潮を頭から無視している。あいかわらず仲が良くなるなんてことはないらしかった。 「おまえはあれに参加するのか?」 あれ、というのがポスターを指していることに気づいた兵頭は、めずらしく渋面になって頷いた。
「出ないと後がうるさいですから」 しかし兵頭もここまで嫌がるとは…。高耶はますます不安になった。
「一体何をやるんだ?」
それでも嫌な予感はするというわけだ。
「おい、これに一体何の意味があるんじゃ」
さすがに不審そうに幾人かの幹部が尋ねるが、入り口の女達はにっこり笑うだけで答えない。
結局潮に無理矢理引きずられてきた高耶も、問答無用でくじを引かされた。高耶は○だった。 「仰木さん、○ですか!?」 目ざとく見つけた姫水軍の女達が、なぜかキャーと嬉しそうな歓声を上げる。 (どういうことだ?) 再び嫌な予感がして高耶は身を引こうとしたが、女達にあっさりと腕を取られる。
「特別席にご招待〜♪」 そのままずるずると、宴会場から少し離れた会議室へと高耶は連れ去られてしまった。
「………ひ、檜垣……?」
まず目に入ったのはごつい熊のような筋肉のついた身体に、なぜかレースとフリルがこれでもかというほどついているピンクのドレスを着た、檜垣小源太だった。 「おう、なんじゃ。おまんも当たりくじかい」 檜垣はすでに開き直っているのか、高耶の姿を見るとその不気味な顔を笑みの形に歪めた。 「…当たり、くじ……?」
高耶は驚愕から立ち直れず、オウム返しに問い返す。
「わああああん!仰木さあぁん!!」
振り返ると、膝上30cmまで短くされたセーラー服に紺のロングソックスを履き、肩までのかつらにリボンをつけた卯太郎が泣きながらしがみついている。
「おまえら、その格好…」 泣きじゃくっている卯太郎の言葉に、高耶は背筋が寒くなった。 (つまり、そういうことか!?) その時後ろから恐怖の声が聞こえた。
「よう来たねぇ、仰木。あんたが来るのを楽しみに待っちゅうたんよ」
高耶の凄みにも、姫水軍の長は動じない。
「見て分かんないかい?今日の趣向だよ」 最初から文句を言う暇すら与えなかったくせに、寧波は駄目押しのように言った。
「まさかいまさら逃げたりはせんよねぇ?遊撃隊長ともあろう者が、たかが女装もできんゆうて逃げたら、わざわざ金払って来とる隊士達はなんて思うか…」
いかにも馬鹿にしたように強調された言葉に、高耶は鋭く反応する。
「…やってやろうじゃねぇか。だが格好をするだけだ。それ以上を要求するようなら、この宴会自体を中止にする」
寧波もさすがに妥協した。
最初は会場の様子に戸惑っていた隊士達も、酒が出された後はいつも通りのどんちゃん騒ぎになっていた。
「ようやっと準備が終わったよ」 寧波の台詞に、何やら恐ろしい予感がした兵頭だった。 そのとき、突然会場の電気が消された。
「な、なんじゃ!?」 騒ぐ隊士達をよそに、立ち上がった寧波がマイクを手に司会を始めた。 「今日はみんなよう来た。今から今日のために連れて来た綺麗どころが入ってくるき、入り口に注目しな」
その言葉を合図に、会場の入り口付近にスポットライトが当てられる。 そして入って来たのは小源太をはじめとする、ゲイバーの姉さん風幹部達だった。 『な、なんじゃあ〜〜〜!?』 驚く隊士達を尻目に、ずかずかと入り込んで来た小源太達は酒瓶を持ってテーブルをまわる。 「今日は無礼講じゃ!じゃんじゃん飲めい!」
コップに溢れるほどついでは、にやっと無気味な笑いを見せる。
一番不幸なのは足摺衆だった。頭の小源太に
「わしの酒が飲めないっちゅーんかい!」 と凄まれ、泣く泣く小源太の相手をさせられていた。 このとんでもないばか騒ぎに、さすがの兵頭も呆れ返る。
「寧波…」
もはや何を言う気にもならず、兵頭は視線をさまよわせた。
「おう、隼人!おまんもこっちゃ来て飲まんかい!」
全くじゃ、といって笑いあう小源太と寧波に、兵頭はうんざりしたように顔を逸らした。
「仰木はまだか?」 兵頭が顔を強張らせると、寧波は嬉しそうに笑って入り口を指差した。 「ほら来た」
[続]
紅雫 著 [あとがき] カウントゲッターミヤオ様のリクエストで「赤鯨衆物」です。 ・・・・・・それがどうしてこんな話になってしまうのだろうか・・・。自分の脳みその腐り方がよく分かる作品ですね(苦)。しかも続いてるし。 果たして高耶は小源太の女装に勝てるのか!(←違うだろーが!) 次回をこうご期待(笑)! |
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