【12】
高耶に呼ばれたような気がして、直江は振り返った。だが、そこにはどぎついネオンに照らされた通りがあるだけだ。
「どうした?」
繁華街の裏通りでの聞き込みは、思うほどはかどらない。なかなか掴めない高耶の足取りに、直江の不安は募っていく。 「ああ、この子!」 直江が慌てて振り向く。 「見たんですか!」 うんうんと頷きながら、女性は写真を眺める。
「思い出したわ。ちょうど私がここに来た時間になんかもめてたのよ。いつものことだし、あんまり気にしなかったんだけど、相手が悪かったから…」 鮎川の問いに、その女性は思い切り眉をしかめた。 「この辺で騒いでるヤンキーどもよ。あいつらちょっと見かけない顔だと、自分達の溜まり場に連れてって乱暴するのよ。男は金取られるくらいだけど、女の子は…」
そう言って嫌そうな顔をする。
「そいつらの溜まり場は、どこですか」 そういえば…、とまじまじと写真を見て、女性は呟く。 「この子可愛い顔してるから、早く行った方がいいかも。獣みたいな奴等だから、何されてるかわかんないわよ」 言われるまでもない。直江の心にはどす黒い怒りが湧き上がっていた。 「ありがとう」 踵を返す直江に、 「今度はお客としてきてね」 と熱いお誘いの言葉がかかる。だが直江には聞こえていなかった。 (高耶さん…!どうか無事で!) 自分の車に乗りこむ直江に、鮎川が慌てて言う。
「待てよ。パトカー出すからそれに乗れ。お前その車で飛ばしたら、スピード違反で捕まって、坊やのところに行けなくなるぞ」 この男が、意外と熱く切れやすいことを知っている鮎川は、一応釘をさしてみる。
「努力はしよう」 鮎川は少し青ざめたようだった。
朦朧とした意識で高耶は考える。 (ああ、そうだ。直江を追いかけていたんだっけ…)
直江の笑顔を思い浮かべる。どこか父さんに似ていて、だけどもっと優しくて嬉しくなる笑顔。 男達は、まだ高耶を帰す気はないようだった。 「おい、誰か酒買って来いよ」 里見の言葉に、2人が立ち上がる。 「ついでに他の奴等も呼んできたら?」 もう1人がちゃかして言うと、
「ばぁか!もったいねぇだろうが。こんなに楽しめる奴は久しぶりだぜ。知ってんのは俺達だけでいいんだよ」
にやにやと笑い合う。
「なんだ、また犯るのか?」
欲望を丸出しにして嗤う。
「おい。スピード持ってただろ。出せよ」 確かにスピードの効果は、先程塗った媚薬入りクリームとは比べものにならないはずだ。その時の高耶の締まり具合を想像して、もう1人の男も股間を膨らませた。 「おら、口開けろよ」
薬を持っている男は高耶の口元で袋を開くと、高耶の口の中に指を突っ込んでこじ開ける。 「お?なんだこいつ」
欲情しているのかと思って、男は下品に笑いながら、高耶の舌を弄んだ。里見は少し離れたところで、それをにやにやと見守っていた。
絶叫が廃工場に響き渡る。
「ひぃぃぃっ!痛えよぉ!」
里見が慌てて助け起こすが、痛みのあまり男は恐慌状態に陥っていた。
「待ちやがれ、このガキ!」 里見は転がっていた鉄パイプを握ると高耶を追いかけた。 「ぶっ殺してやる!」
[続]
紅雫 著 [あとがき] ようやく高耶さんの反撃です。狼少年の本領発揮?(笑) そして直江はいまだに迷子…。ああ、でもようやく場所が分かりましたしね。お水のお姉さんに感謝しろ(笑)。 果たして直江は高耶さんを救うことができるのか。次回をお楽しみに。 |
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