OATH 〜ずっとそばにいる〜


【12】





(高耶さん…!?)

高耶に呼ばれたような気がして、直江は振り返った。だが、そこにはどぎついネオンに照らされた通りがあるだけだ。

「どうした?」
「いや、なんでもない」

繁華街の裏通りでの聞き込みは、思うほどはかどらない。なかなか掴めない高耶の足取りに、直江の不安は募っていく。
その時、鮎川が質問していたお水系の女性が突然大きな声を出した。

「ああ、この子!」

直江が慌てて振り向く。

「見たんですか!」

うんうんと頷きながら、女性は写真を眺める。

「思い出したわ。ちょうど私がここに来た時間になんかもめてたのよ。いつものことだし、あんまり気にしなかったんだけど、相手が悪かったから…」
「相手って誰ですか」

鮎川の問いに、その女性は思い切り眉をしかめた。

「この辺で騒いでるヤンキーどもよ。あいつらちょっと見かけない顔だと、自分達の溜まり場に連れてって乱暴するのよ。男は金取られるくらいだけど、女の子は…」

そう言って嫌そうな顔をする。
聞いている間に、直江の顔はどんどん険しくなっていた。

「そいつらの溜まり場は、どこですか」
「ここから車で20分くらい離れた廃工場よ。女の子だとどこかの部屋を使うこともあるみたいだけど、男はそこに連れて行かれるみたい」

そういえば…、とまじまじと写真を見て、女性は呟く。

「この子可愛い顔してるから、早く行った方がいいかも。獣みたいな奴等だから、何されてるかわかんないわよ」

言われるまでもない。直江の心にはどす黒い怒りが湧き上がっていた。

「ありがとう」

踵を返す直江に、

「今度はお客としてきてね」

と熱いお誘いの言葉がかかる。だが直江には聞こえていなかった。

(高耶さん…!どうか無事で!)

自分の車に乗りこむ直江に、鮎川が慌てて言う。

「待てよ。パトカー出すからそれに乗れ。お前その車で飛ばしたら、スピード違反で捕まって、坊やのところに行けなくなるぞ」
「済まないな」
「いや、俺の仕事でもあるからな。だが頼むから、俺の前で傷害事件を起こしたりするなよ」

この男が、意外と熱く切れやすいことを知っている鮎川は、一応釘をさしてみる。

「努力はしよう」

鮎川は少し青ざめたようだった。





(どうしてこんなことになったんだろう…)

朦朧とした意識で高耶は考える。

(ああ、そうだ。直江を追いかけていたんだっけ…)

直江の笑顔を思い浮かべる。どこか父さんに似ていて、だけどもっと優しくて嬉しくなる笑顔。
どうしてあの笑顔を思い出すだけで、こんなに幸せな気持ちになるんだろう。
こんなに痛いのに。
苦しいのに。
…お前がいないのに。
きっともう家に帰ってる。オレのことを探してる。早く帰らなきゃ。早く…。

男達は、まだ高耶を帰す気はないようだった。

「おい、誰か酒買って来いよ」

里見の言葉に、2人が立ち上がる。

「ついでに他の奴等も呼んできたら?」

もう1人がちゃかして言うと、

「ばぁか!もったいねぇだろうが。こんなに楽しめる奴は久しぶりだぜ。知ってんのは俺達だけでいいんだよ」
「そうだな」

にやにやと笑い合う。
2人が出ていくと、里見は床にうち捨てられている高耶に再び近づいた。

「なんだ、また犯るのか?」
「放っといたらかわいそうだろ」

欲望を丸出しにして嗤う。
だが抱き起こしても高耶が無反応なのを見ると、もう1人の男に言った。

「おい。スピード持ってただろ。出せよ」
「そいつに使うのか?」
「いい加減、くたびれてきてるからな。お前も薬打ったこいつを試したいだろ?」

確かにスピードの効果は、先程塗った媚薬入りクリームとは比べものにならないはずだ。その時の高耶の締まり具合を想像して、もう1人の男も股間を膨らませた。

「おら、口開けろよ」

薬を持っている男は高耶の口元で袋を開くと、高耶の口の中に指を突っ込んでこじ開ける。
すると、その指に高耶が舌を這わせてきた。

「お?なんだこいつ」

欲情しているのかと思って、男は下品に笑いながら、高耶の舌を弄んだ。里見は少し離れたところで、それをにやにやと見守っていた。
ゆっくりと、高耶が口を開く。
そして、思い切り男の指に歯を立てた。

絶叫が廃工場に響き渡る。
男は慌てて高耶を引き剥がし、自分の指を押さえて転げまわった。その指は噛み砕かれ、血が溢れ出している。

「ひぃぃぃっ!痛えよぉ!」
「大丈夫か!」

里見が慌てて助け起こすが、痛みのあまり男は恐慌状態に陥っていた。
その間に、高耶は動かない体を引きずって逃げ出す。

「待ちやがれ、このガキ!」

里見は転がっていた鉄パイプを握ると高耶を追いかけた。

「ぶっ殺してやる!」





[続]

紅雫 著
(2000.02.15)


[あとがき]
ようやく高耶さんの反撃です。狼少年の本領発揮?(笑)
そして直江はいまだに迷子…。ああ、でもようやく場所が分かりましたしね。お水のお姉さんに感謝しろ(笑)。
果たして直江は高耶さんを救うことができるのか。次回をお楽しみに。


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