OATH 〜ずっとそばにいる〜


【13】





直江の乗ったパトカーが廃工場に着いたとき、ちょうど2人の男が車に乗りこもうとしていた。

「やべぇ!サツだ!」

2人の男は慌てて逃げ出した。

「逃すか!」

鮎川とその部下達が追いかける。
その時、廃工場から絶叫が聞こえてきた。

「なんだっ!?」

(高耶さん…っ!!)

直江は1人廃工場に駆け込んだ。鮎川も慌てて続く。



高耶は工場の隅に追いつめられていた。

「…ちょろちょろと逃げ回りやがって」

怒気を滲ませて、里見は高耶を見下ろしていた。その手には鉄パイプが握られている。
高耶は恐怖に身体を竦ませながらも、なんとか逃げ出そうと隙を伺っていた。
突然工場の入り口あたりが騒がしくなる。

「なんだ?」

里見が首を巡らせたとたん、高耶が走り出そうとした。
だが里見の方がすばやく高耶を転ばせ、倒れた高耶の足を掴んで引き寄せた。
高耶が小さな悲鳴を上げる。

「逃がさねぇよ。てめぇには地獄を味合わせてやる」

引きつった笑顔を浮かべる。手に持った鉄パイプがゆっくりと振り上げられた。
高耶は思わず目をつぶる。

(直江!!)

「高耶さん!!」



中に踏み込んだ直江は、1人の男がうずくまっているのを見つけた。その男の指は血にまみれ、男は痛みのあまり失神しているようだった。

(高耶さんは…っ!?)

慌ててあたりを見回した直江の視界に、切り裂かれた高耶の衣服と血痕が入ってくる。

(高耶さん…!!)

怒りに目の前が紅く染まる。
その時奥から小さな悲鳴が聞こえた。
それが高耶の声だと分かる前に、直江は走り出した。

高耶がうつ伏せに倒れこんでいる。
その上にのしかかる男が振り上げているのは―――!

「高耶さん!!」

直江の絶叫に、男ははっとこちらを向いた。
男が反応するより早く、直江は殴り飛ばしていた。
男の手から零れ落ちた鉄パイプが、重い音をたてて転がる。

荒く肩で息をする直江を、高耶は呆然と見ていた。

「なおえ…?」

その声にはっとして、直江は高耶を振り返った。そしてその無残な姿に愕然とする。
高耶は全裸だった。顔は殴られたのか腫れ上がり、唇から血が出ている。身体に走る無数の紅い線と、汚れた液体。そして赤と白がまざった粘液がこびりついた下肢。
高耶の身に何が起こったのかは一目瞭然だった。怒りと絶望で、今度は目の前が真っ暗になったようだった。

ふらふらと高耶に近づき、そっとその頬に触れる。

「高耶さん…」

何と言えばいいのかわからない。
なぜ自分はこの人を助けられなかったのか。なぜ、この人を守れなかった。後悔で喉が塞がって、言葉が出ない。
言葉のかわりに、強く抱き締める。二度と離さないというように。
苦しさに高耶が声を漏らす。だが、直江は腕を緩めない。
込み上げる怒りを堪えるように、高耶を強く抱き締めた。

直江の熱が、高耶の素肌に直接伝わる。

(熱い…)

直江が、いる。
ここにいる。
直江は自分を迎えに来てくれたのだ。

そう思ったとたん、涙が溢れてきた。

「なおえ…っ」

泣きながら直江にしがみつく。
直江は震える高耶の身体を、しっかりと抱き締め直した。
安心させるように、もう泣かないように。

「もう、大丈夫だから。泣かないで…」

遠くに救急車とパトカーのサイレンが聞こえる。鮎川が直江にのされた男を連れていく。
直江は泣き続ける高耶を自分の上着で包み込み、抱き上げて救急車に運んだ。

こうして長い一日はようやく終わりを告げたのだった。





[続]

紅雫 著
(2000.02.16)


[あとがき]
「高耶さん救出編」です。直江、最後の最後でようやく見せ場が(笑)。
いや、まあ殴り倒しただけですけど〜。それ以上やるとさすがに鮎川がかわいそうだし(笑)。
事件はこれで解決です。次は本当のエンディング。ここまで読んでくださってありがとうございました。そして次回をお楽しみに。


<戻 目次 次>


サイトに掲載されている全ての作品・画像等の著作権は、それぞれの製作者に帰属します。
転載・転写は厳禁させていただきます。
Copyright(c)2000 ITACHI MALL All rights reserved.