【14】
「大丈夫ですよ。どこにもいかないから」
そう言って聞かせても、直江の服の裾を離そうとしない。
高耶はあれから一言も喋らない。養父が亡くなったときのように表情も少なく、ただ直江だけを見つめていた。
結局その夜は、直江も泊まり込むことになった。
怒りが再燃する。
同時に、醜い嫉妬をしている自分もいる。鮎川がいなければ、高耶を抱いたあの男達を自分は皆殺しにしていただろう。 (この人は俺のものだ)
高耶が犯されたことで、自分の中の獣が貪欲に動き出す。もし高耶が怪我をしていなかったら、今この場で抱いてしまっているだろう。 その時薬で眠っていたはずの高耶が、もぞりと動いた。 「……なおえ…?」
どこか不安そうな声で、高耶が呟いた。
「高耶さん?目が覚めてしまったんですか」
そう言うと、優しく抱き寄せた。
「直江がいたと思ったんだ…」 意味が分からず、撫でていた手を思わず止めて聞き返す。
「駅で車を見たんだ。お前が乗ってると思って、追いかけたんだけど迷って…」
そうしてあの連中に捕まったのだ。 (つまり、俺のせいだと言いたいのか)
だが、高耶の瞳に非難の色はない。高耶は直江をじっと見上げながら小さな声で話し続ける。
「あの車、直江のじゃなかったんだな。同じだったから、分からなかった…」
そう言って小さく笑う。
「高耶さん…」
胸が痛くなる。こんな目にあっても自分に笑いかけてくれるのはなぜだろう。 「すみませんでした」 突然謝る直江に、高耶は首を傾げる。
「なにが?」 直江は苦しそうに眉を寄せ、高耶をじっと見つめた。
「あなたを置き去りにして、こんな目に合わせて。肝心なときにあなたのそばにいなくて、あなたを守れなかった」 何を言っているんだというように、高耶は直江を見つめ返す。 「あの時、直江が来なかったらきっと殺されてた。直江はオレをちゃんと助けてくれただろう?」
直江は高耶の言葉に呆然となった。
高耶は再び直江の胸に顔を伏せ、冷たい手でしがみついた。 「…恐かった。もう直江に会えなくなるかと思った」 そして小さく呟く。 「助けてくれてありがとう…」
高耶の言葉が暖かく胸に染み込んでいく。 直江は高耶の顎に手を添え、自分の方を向かせ、真摯な瞳で告げる。 「もう二度とこんな目には合わせません。二度と置いて行ったりしない。あなたは私が守ります」
そして淡く色づいた口唇に、そっとくちづける。
「ずっとそばにいてくれるのか?」
高耶が嬉しそうに微笑んだ。それはあの天使のような微笑みだった。 それは誓いのくちづけ。 「愛しています、あなただけを。ずっとそばにいる。あなたのそばに…」
二度と離れないことを、神に誓う。
高耶は細い腕を直江の身体に回し、抱きしめ返した。 「ずっとそばにいて…」
月が抱きしめあう2人を青く照らす。 ――――ずっとそばにいる。
この誓いを忘れない。 ――――ずっと、そばに…。
[終]
紅雫 著 [あとがき] 「OATH〜ずっとそばにいる」これで完結です。いかがでしたでしょうか? 構想3日、制作1ヵ月の、我ながら超大作(笑)だと思っております。当分こんなに長いのは書けないだろうなぁ・・・。 それにしてもこんなに長い話でキスどまりとは、実はこれって直江いじめ小説だったんですねぇ(笑)。 さて、こんなに長い話を飽きずにここまで読んでくださった皆様方。心からお礼申し上げます。本当にありがとうございました。 追記:「おまけ編〜やさしくしてね〜」があります。このページにこっそりリンクが・・・(笑)。
【改訂】(2003.10.20) |
<戻 | 目次 | 次> |