【2】
それはまさに獣の瞳だった。
直江は打たれたように立ち竦んだ。
彼は部屋の中央でうずくまるように座り込み、顔をこちらに向けてひたすら睨んでいる。
「―――高耶さん、ですか?」
叔父に聞いていた、彼の名前をそっと呼んでみる。
(どうしたものか)
数瞬悩んだものの、どうせ警戒して話にならないのならと、自己紹介から始める。
「私は直江信綱といいます。あなたのお父さんから頼まれて―――」
そこで、劇的な変化が訪れた。 「なおえ…?」
目を丸くしてじっと見つめてくる。 「ええ、そうです」 (叔父上が俺のことを話していたのか?)
だとしたらありがたい事だ。 「お父さんから頼まれて、これからあなたと一緒に暮らします。よろしくお願いしますね」
高耶は何も言わない。
その時、高耶がそっと首を傾げて、
そうだ。そのことも伝えねばならない。
「あなたのお父さんは亡くなられました」
意味が分からないのか。
少し驚いて高耶を見る。
そこまで考えてから、高耶の表情に気がついた。 「もう、いないのか…」
呆然と呟く。
直江は初めて高耶が哀れに思えた。
直江はそっと高耶に向けて手を伸ばした。 (仕方がないか) 溜息をつくと、直江は再び高耶を正面から見つめ直した。
「今日お通夜があって、明日はお葬式です。あなたはあの人の息子ですから、式には出て頂きたいのですが、出られますか?」 そう言って微笑みかけると、高耶はこくんと頷いてすがるような瞳で見つめてくる。 (抱きしめてあげたい)
ふと浮かんだ自分の思考に、直江は戸惑う。 「直江…?」 高耶の声に、我に返る。 「何でもありません。さあ、支度をして下さい」
直江はもう一度そっと手を伸ばした。
[続]
紅雫 著 [あとがき] ようやく高耶さん登場。と思ったら、それだけで終わってしまいました(爆)。 ・・・この調子でいくとなると、そうとう長くなりますねぇ。どうしようかな(笑)。まあなるようにしかなりませんが。それでは次回をお楽しみに。 |
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