【5】
(疲れていただろうからな…)
溜息をつき、高耶を起こさない様にそっと離れようとする。
高耶は涙を流していた。
再び直江に衝動が湧き上がった。
その感触に、高耶のまつげがぴくりと動いた。
「高耶さん!」 はっきりとした拒絶。
一瞬直江の動きが止まった。 「いや…!」
思い切り引っ張られ、悲鳴が高耶の口から漏れた。
荒い息が部屋に響く。 「なぜ逃げようとしたんですか」 高耶が大人しくなったのを確かめると、直江はそっと身体を離し、優しく問いかけた。 「……」
だが、高耶は答えない。 「高耶さん」
それでも直江は根気強く答えを促す。 高耶がゆっくりと顔を上げる。
「高耶さん…?」
潤んだ瞳で直江を睨みつけている。
「なぜ私がうそつきなんですか」
高耶は突然激昂した。
「捨てたりなんかしない。なぜ私があなたを嫌いだなんて思うんです。そんなこと一言も言ってないでしょう」
高耶の言葉に、直江は理不尽な怒りを感じた。
「そんなことはない」
高耶が泣きながら必死に叫ぶ。 「おまえはオレと話す時、いつも眼を逸らしてる。いつも仕方がないって顔して。そんな奴のことなんか、信じられるわけない!」
首を振りながら涙を流す。ぼろぼろと零れた涙は、頬を伝ってシーツに落ち、小さな染みを作っていった。 「高耶さん…」
何といっていいのか分からなくなり、名前を呼んでそっと頬に手を伸ばす。 「違うんです。あなたのことが嫌いなんじゃない。ただ私はあなたとどう接したらいいか、分からなかったんです…。でもそのせいであなたを傷つけていたんですね」
すみません…、と誠意を込めて謝罪する。
「あなたをどうでもいいなんて、思うわけがない。あなたを捨てたりなんて、絶対にしない」 高耶は弱々しく首を振りながら、直江を否定する。
「なぜ?」
直江は親戚一同に殺意に近い怒りを覚えた。 「高耶さんは私よりそいつらを信じるんですか?」 直江の問いに、高耶は頼りなく瞳を揺らす。
「…わからない」 再び高耶の叔父への想いを感じ、直江は穏やかな声に戻った。
「じゃあそんな奴らの言うことなんか、信じるのはやめなさい。私のことを信じればいい。私はあなたのお父さんが大好きでした。だからあなたを引き取って欲しいといわれた時、驚いたけれど嬉しかったんです」 首を傾げる高耶に、優しく微笑みながら答える。
「ええ。私を頼ってくれて嬉しかった。大切なあなたを私に託してくれたのが、嬉しかったんです」
高耶は再び驚いて、直江を見つめ直した。
「お父さんは病気で逝ってしまったけれど、私はずっとそばにいます。あなたを独りにはしないから。だから、あなたも私を信じて下さい」
高耶の不安を打ち消すように強く言い、そっと抱きしめてやる。 (あったかい…) 昔養父に抱きしめられた時のように安心する。 (そばにいる…。直江はそばにいてくれる。もうオレは独りじゃないんだ…) 高耶はおずおずと直江の服を掴んで、小さく呟いた。 「ずっとそばに…」
[続]
紅雫 著 [あとがき] 「直江、高ちゃんをGETだぜ!」編でございます(笑)。いや、まあ信頼を得ただけなんですけどね。まだまだ高耶さんにとって直江は父親代わりのようです。しかし高耶さんのロリ化に拍車がかかってるような気が・・・(爆)。 さて、なんだかこのまま終わりそうな勢いですが、まだまだ続きます。とりあえず第1部完ってところでしょうか。続きをどうぞお楽しみに。 |
<戻 | 目次 | 次> |